インタビュー 事業や技術の社会実装とは

「コンプライアンスリスク」を誤解し連敗する日本企業──ハブとしての個人の影響力、ビジョンの実現とは?

ゲスト:森・濱田松本法律事務所 弁護士 増島 雅和氏

 前編では、ガバナンスの本質的意味を理解するためのコントロールという概念との対比、変化の早い時代に適したガバナンスのあり方について、ローレンス・レッシグの文献なども参照しつつ、森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏に教示いただいた。ここからは、スタートアップに学ぶコンプライアンスのあり方、ビジョンに到達するためにルールを変えるという発想、これからのビジネスパーソンに欠かせない安全保障や国際関係の感覚などについて最新の情勢に基づいた知見が語られる。聞き手は『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』の著者・馬田隆明氏(東京大学産学協創推進本部 FoundX ディレクター)。

[公開日]

[語り手] 増島 雅和 [聞] 馬田 隆明 [取材・構成] やつづかえり [画] 青松 基 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 企業戦略 コンプライアンス 社会実装 ダイナミック・ガバナンス ガバナンス・イノベーション

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与えられたルールを守ることが「コンプライアンス」ではない

馬田 隆明氏(東京大学産学協創推進本部 FoundX ディレクター、以下敬称略):大企業では「ルールとは与えられるものだ」という雰囲気が強く、変えていこうという動きが起きにくいと感じていました。この点についてはどうお考えですか?

増島 雅和氏(森・濱田松本法律事務所 弁護士、以下敬称略):企業などの組織に所属している僕らは、常に「コンプライアンス」を考えますよね。ではコンプライアンスとは何か、それは一義的には「法律を守る=法令遵守」だとされています。では、守るのは法律だけなのか。実はそうではなくて、「社会から自身に期待されているものに応えるのがコンプライアンスだ」という捉え方があります。コンプライアンスをそのように捉えると、例えば、当時著作権侵害のコンテンツのオンパレードだったYouTubeを買収するということも、タクシーなどの規制を守っていないようにも見えるUberのようなサービスをやることも、スタートアップにとってはコンプライアンスなんです。

 スタートアップの存在意義は、過去の延長線上からは到達できない未来を人間がつかみ取る、過去ではなく今の技術水準や社会状況などをベースにあるべき未来を描き、「未来はこういう状態にあるべきだ」「今の僕らはこれだけ世界を良い場所にできる」というビジョンを掲げて、ビジネスとして持続可能な仕組みを打ち立てるところにあります。彼らのビジョンや仮説から打ち立てられたビジネスモデルが成り立つのであれば、「社会はそのビジネスを実現することを我々に期待している」と考えるわけです。こうしたイノベーターにとってのコンプライアンスは、今のルールをどうやって守るのかということよりは、そのビジョンをどうやって実現するかという課題のサブセットになるわけです。

 新しいビジネスを実現するためには、往々にして人々に既存の価値観を変えてもらう必要があります。法律もそうしたビジョン実現のために変えていくべき対象の1つに過ぎないと、イノベーターは考えるわけです。だから、ルールを動的なものと捉えて、自らの事業成長の時間軸に合わせてルールに影響を及ぼし、ビジネスモデルが確立するフェーズには変更後のルールにきちんとコンプライしている状態を作る。そのための一連の活動を行うことが、イノベーターにとっての「コンプライアンス」なのです。例えば、Airbnbは民泊振興にあれだけ貢献しルール・チェンジに投資をするのは、それが彼らにとっての最大のコンプライアンスだと捉えているからです。

 大企業に所属する人たちは、往々にしてルールは与えられたものだと考え、そのルールを遵守することがコンプライアンスであると捉えてきました。でも、会社の規模に関わらず、自分たちが何をステークホルダーから期待されているのかというコンプライアンスの本旨に立ち返ることが必要です。自社の存在意義やステークホルダーに対してどのように価値を提供していくことにコミットしているのかという問いが、まず本質的に突き詰められていないといけません。

 自己の存在意義に立ち返って、それを実現するため既存のルールをアップデートする必要があるのであれば、既存のルールの範囲内でしかできないとあきらめたり、逆にルールの裏をかくことに汲々としたりするのではなく、ルールを動かすために会社の資源を投入するという判断をするべきです。こうしたコンプライアンスに対する考え方は、スタートアップなのか大企業なのかという会社の規模の問題ではなく、自社をどのように規定するかの問題なのだと思います。

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