デジタルサービスづくりにはスーパーマンが必要か
まずは、プロダクトマネジメント、プロダクトマネジャーとは何か。その点からお話ししたいと思います。
プロダクトの計画とその実行までを担う職務がプロダクトマネジメント、それを担当するロールがプロダクトマネジャーです。プロダクト全体のビジョンやロードマップを定め、UIデザイナーやエンジニアがデザイン・実装を行えるようにプロダクトバックログを書きます(プロダクトバックログについては後ほど詳細に説明します)。プロダクトの継続的な成長のためにKPIを設定し、ビジネスゴールを達成するための施策を計画・実行します。また、利害関係の異なるプロダクトの関係者を同じゴールに導くためのリーダーシップやミーティングにおけるファシリテーションも必須のスキルとなる、かなり難易度の高い職種です。なお、最近大企業を中心に導入が進みつつあるプロダクトオーナー(PO)がこの役割を担うことも増えてきています(プロダクトマネジャーとプロダクトオーナーの違いも後述します)。
また、プロダクトマネジメントの全体像を説明する際によく用いられるのが、以下の「プロダクトトライアングル[1]」です。プロダクト(The Product)を中心にUIデザインを含む「Developers」、UXを含む「Users」、ビジネス層である「The Business」のトライアングルがプロダクトマネジメントの全体像、ステークホルダーです。
私が初めてプロダクトマネジャーというロールを耳にしたのは、エンジニア 宮川達彦さんが運営するPodcast「Rebuild.fm」からでした。2015年に放送されたこのエピソード[2]では当時まだ認知度の高くなかったプロダクトマネジャーの役割が紹介され、当時ベンチャー企業でエンジニアとして働いていた私にはとても新鮮でこの回を何度も聞き直しました。
Rebuild.fmではそれぞれのエピソードにちなんだユニークなタイトルがつけられますが、プロダクトマネジャーについて話された回のタイトルは「Superhumans Wanted」です。
プロダクトマネジャーに求められる、ビジネス、ユーザー体験、デザイン、エンジニアリングなどの知識と経験の範囲の広さ。このことから「デジタルサービスを作り、ヒットさせていくためにはスーパーマンが必要なのか?」という問いかけを含んだタイトルです。ちなみにこのエピソード内での問いへの答えは「Yes!」でした。
私自身の今までの経験上でも、同じ答えに到達しました。プロダクトマネジメントの成果次第でプロダクト、またそれを通したビジネスの成果は大きく変わりますが、プロダクトマネジメントに必要とされる知識や経験を包括的に持っている人材はなかなかいないのが現状です。
ビジネスアジリティとプロダクトマネジメント
プロダクトマネジメントはデジタルプロダクトの開発に関わる専門職で、開発現場に関わる人にしか関係のないものではありません。
弊社根岸が担当した本連載の1回目では 企業において、ビジネスの環境変化に機敏に対応する能力としてビジネスアジリティの重要性とその系譜、実行フレームワークであるSAFeについて紹介しました。SAFeはデジタルプロダクトの開発手法に閉じたフレームワークではなく、その影響範囲は経営戦略・組織全体に及びます。多くの企業が組織全体でリーンやアジャイルの方針に舵を切ろうとしており、変化の激しい環境において新たなビジネスを立ち上げるための人材を社内で増やす取り組みをしています。その中で、本連載を読んでいただいているようなビジネス部門の方がプロダクトマネジメンを担当する可能性も決して低くはないでしょう。実際弊社のお客様の中でもデジタルプロダクトの立ち上げや運用の経験はないものの、プロダクトオーナーとして実際にプロダクトを作り、またその運用を通じたビジネスゴールの達成を担当されている方もいらっしゃいます。
しかし、初めてプロダクトオーナーを担当する方のみで多岐にわたるプロダクトマネジメントの全領域を実施することは現実的ではありません。弊社ではデジタルプロダクトの「機会領域の発見-アイデア検討段階」から「デザイン・開発」や「運用」に至るまでデジタルプロダクトに関わる広い領域の支援も状況により行っています。プロダクトマネジメント部分の支援が必要な場合には、弊社のプロダクトマネジャーがプロジェクトに入り一緒にプロダクト計画を策定します。
[1]Dan Schmidt「The Product Management Triangle」(June 22, 2014)
[2]Tatsuhiko Miyagawa, Naoya Ito 「Rebuild: 98: Superhumans Wanted」(Jun 28 2015)