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『Good Service』ルー・ダウン氏が語る、行政のための「サービスデザイン15の原則」とは?

講演者:The School of Good Services ルー・ダウン氏

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 さまざまな企業がDXを推進し、多くのユーザーがデジタル環境に慣れ親しむ中で、国や地方自治体の公共サービスにもデジタル化の波が押し寄せている。しかし、まだストレスなしに使えるという状態には程遠い。行政サービスをデジタル化する際には、どんなことに気をつければいいのだろうか。  第5回サービスデザイン・ジャパン・カンファレンスでは、イギリス政府内のサービスデザイン部門の創設者であり、『Good Service DX時代における“本当に使いやすい”サービス作りの原則15』の著者ルー・ダウン氏が登壇。なぜ公共サービスは使いにくいのか、その結果起こることや、その対策を紹介する。

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なぜ行政サービスはうまく機能しないのか

 ルー・ダウン氏はイギリス政府内のサービスデザインの仕事を通して、「なぜ私たちが使うサービスのほとんどがこんなにうまく機能しないのか」と疑問に思い続けているという。その不便さは大きな問題を即座に引き起こすわけではないが、じりじりと人々の暮らしを悪くする。そしてダウン氏はこんな例から講演を始めた。

 NYのロッチデールビレッジに住むアンは、2001年に資格を得た学校の教員。自身は2人の子供を抱えているシングルマザーでもある。収入は年間55,000ドル(約620万円)だが、世界で最も家賃の高いNYで暮らすには生活が厳しく、副業などで忙しい。教員資格取得のために860万円の学生ローンを組み、月々の返済に苦労している。これは多くのアメリカの教員が抱える状況だ。収入が投資に見合わない。

 実は、アンには政府の助成を使ってローンを返済しないでも済む資格がある。ただ、これには少し厳しい条件がある。月に1、2ドルといった少額の返済を120回、つまり10年連続で続けるという条件である。この目的はアメリカ政府が学生ローンを使った人が、教師、医師、看護師などといった仕事を10年以上続けているかを確認したい、という点にありフェアな理由だ。アンは既に19年教師の仕事をしているのでその資格を使えるはずだが、まだローンを返済しなければならない。

 その要因は、政府に変わって働き、ローンを貸し出し、この種の助成の管理をしているNAVIENTという団体にある。テレフォンオペレーターに「7分ルール」というものを課しており、アンのような人が電話をかけると7分以内に電話を切りたがる。なぜなら7分以上かかるとオペレーターはボーナスが減らされてしまうからだ。アンが電話をして、「ローンの返済が苦しいが、何か方法がないか」と尋ねても、対応に7分以上かかりそうな、政府の救済措置を使うための信用調査などはやりたがらず、単に支払いを一時停止してしまうのだ。だからアンは10年間で120回の連続支払いをできておらず、政府のスキームは使えないことになってしまった。

 これは一例だが、悪いサービスは何か悪意から大きな害をもたらそうとしているわけではないのに、小さな、微妙な不便さを長年にもわたって積み重ねてしまう。NAVIENTはアンの人生を台無しにしたかったわけではなく、スタッフの無駄な残業を減らしてコストを下げようとしていただけなのだ。

 サービスを作る時、私たちは「人々の職場復帰を円滑にしたい」「ローンを提供したい」「環境的にもやさしい手頃な価格の家に入居することを助けたい」と思っている。しかし、実際に実施するにあたり、オペレーション上の不具合から意図しない結果を呼び寄せてしまうことがある。

 さらにはもっと大きな問題にもつながる。アメリカではアンのような人が高収入を求めて離職してしまい、公教育の質が低下しているのだ。また公共サービスの不具合によって起こる問い合わせ対応には大きなコストがかかっている。こういった小さな不具合によって被る被害は、個人、組織、社会に大きな損失をもたらしている。

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この記事の著者

フェリックス清香(フェリックスサヤカ)

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