経営の危機感からコーポレート直下に作られた事業開発のための組織
宇田川 元一氏(以下、敬称略):NECでは、2013年にコーポレート直下に設立されたBIUを中心に、新規事業開発とそのための組織変革を進めてこられました。お話を伺って感心したのは、単に新しいことをやるための部門を作ったというだけでなく、既存事業の組織変革にも広げていかれていること、経営トップの動きとも歩調を合わせて企業全体の改革の中に位置づけられているということです。かといって、常に“優等生的な振る舞い”を続けてきたというわけでもなく、社内で生まれた新規事業をカーブアウトという形で独立させるなど、かなりの荒業も実行されています。
そんな“離れ業”のようなことが大企業の中でもできるのかと驚かされました。でも、北瀬さんをはじめNECの方々にお話を聞くと、一つひとつのステップを踏んで丁寧にやっていくことで、それが可能になることが分かってきます。見落とされがちですが、これが変革の本質だと思っています。
北瀬 聖光氏(以下、敬称略):BIUは2021年に研究開発ユニットと統合され、現在はグローバルイノベーションユニット(GIU)にその機能が移っています。旧BIUは、2013年当時に副社長だった新野(隆氏)が立ち上げました。それまでのNECの業績は悪く、株価が100円を切るようなこともあったほどです。このままではNECはなくなってしまう、信頼してくれているお客様たちの期待に応えることができない、という経営の危機感から立ち上げが決まりました。
というのは、短期的な数字を上げなくてはいけない既存事業部門に対し、将来の成長事業を創りなさい、長期の投資をしなさいというのは難しいですよね。これはコーポレート直下でやる必要があるということで、BIUが生まれました。具体的には、当時の中期経営計画に掲げていた注力4領域(SDN、ビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ)について、全社横断で人を集め、早く事業を立ち上げることを目指しました。私はBIUの事業イノベーション戦略本部に参画していて、そこでは将来の事業の種を作ると同時に、将来の事業を背負って立つ人も作るという機能を担っていました。
宇田川:既存部門では新しいことをやることが難しい。これは経営学では組織理論家のカール・E・ワイクが「タイト・カップリング[1]」といって、市場と自社の戦略がきつく結びついているからだとその理由を説明しています。うまく回っているときはいいのですが、市場が縮小しはじめると事業も縮小するという“負の循環”が起こります。そこで他のことを始めようとするのですが、既存事業でタイトに結びついてしまっているので新しいことに資源を配分することがなかなかできない、という問題が起きるわけです。
将来の会社の成長を担うイノベーションを現場で起こすのは難しい。だからコーポレート直下に専門の組織を作る。ここまでは多くの会社でやっていることだと思います。でも、NECのように丁寧にステップを踏んで、本当の成果を出しているところは少ない。その違いはどこにあるのでしょうか。
[1] カール・E. ワイク『組織化の社会心理学 (第二版)』(文眞堂、1997年)