“リストラなし”で組織を大きく変えたリクルート
後藤宗明氏(以下、敬称略):今の日本企業を取り巻く事業環境と必要とされる人事戦略について、曽和さんはどのようにお考えですか。
曽和利光氏(以下、敬称略):「欧米を目指す」といった目標が明確で、早く・安く・たくさん良いものを作れる生産力が重要だった高度成長期を「生産の時代」、必要なものは誰もが持てるようになり差別化が重要になったバブル期を「戦略の時代」と呼ぶとすると、今は世の中の速い変化に組織を対応させていくことが重要な「組織の時代」だと言えます。チェンジマネジメントの上手さが、その会社の勝ち負けを決めるのです。
チェンジマネジメントの領域では、ジョン・P・コッターの「変革の8段階のステップ」や、ルイス・ガースナー元CEOがIBMをメーカーからコンサルティング会社へと変革した事例など、いろいろな理論や事例があります。しかし、人を入れ替えることで組織を変えていくようなドラスティックなやり方は、米国の労働観や雇用関係、労働法制などが前提になっています。日本では、法的な制約だけでなく組織と個人の関係性を考えても、米国流のリストラは難しいでしょう。
そう考えたとき、自分がいたリクルートを振り返ると、リストラによるチェンジマネジメントをしたわけではないのに、私が入った30年ほど前と今では随分と変わっているんです。
例えば、当時は国内事業ばかりのドメスティックな会社でしたが、今や海外売上の方が多いグローバルな会社になっています。紙媒体の会社だったのが、ネットやデジタルの会社になりました。また、自社で新規事業を立ち上げるのが上手い純血主義の会社でしたが、今はM&Aやオープンイノベーションなどを活用して、多業種展開しています。あるいは、営業会社だったのが、技術や企画中心の会社になってもいます。もう、全く違う会社と言っていいくらいで、人材に求められるスキルや組織に合うパーソナリティも変化しています。
でも、中にいる人はみんな「気づいたら変わっていた」と言うんですよ。いい意味での「茹でガエル」のように、そんなにドラスティックに変わっている印象はないままに、いつのまにか適応しているんです。
そんなリクルートの変化の秘密を解き明かそう、思い出して整理してみようと書いたのが『定着と離職のマネジメント』です。「そういえば、こういうことをやっていた」「ああいうことをやっていた」というのをまとめていくと、じわじわと変わっていくためのキーとなったのが「計画的人材流動性」の実現だったというわけです。