事業を「利便性」と「意味性」を軸に捉え直す
──書籍のテーマとして「利便性」と「意味性」を用いた理由をお聞きできますか。
まずDXをテーマにしたアフターデジタルシリーズにおいて、続編として書籍を執筆しようかと漠然と考えていました。DXがバズワードとなるなかで、他にも多くのバズワードが世の中に出てくるようになっています。これらをただ追いかけるのではなく、背景にある「共通項」は何かを知ることが重要だと考え、『アフターデジタル2 UXと自由』でも少し触れた「意味性と利便性」に何かヒントがあるのではと考えるようになりました。
2022年の夏に、シンガポールやインドネシアに視察に行き、中国とは違う成長を遂げている様子を目の当たりにしました。また、時代のトレンドにあわせ、自身でNFTコレクションを購入したり、Web3アプリを使用してみたりと、そのトレンドの背景に何があるのかを、実際に自身で経験することで分析・研究できないかと思いました。
そこで感じたのが、やはり「利便性」と「意味性」という2つの軸で、社会にさまざまな進化が起きているのではないかということ。そのような時代の拠り所にするための確かな視点や考え方のフレームを提示し、判断基準の道具にしていただくための本にしたいと思い執筆しました。
──では、「利便性」と「意味性」とは何かをお聞きできますか。
「利便性レイヤー」は、交通渋滞や病院の混雑、インターネットが遅い、プロセスが煩雑など、誰にでも分かりやすい課題を解決する領域です。ただし、分かりやすい課題解決には競合も多く、差別化が難しく、かつ、マス市場向けに少数の企業しか生き残れない市場となっています。。新興国でのイノベーションは、主にこの利便性レイヤーから生まれます。低単価のサービスを多くのユーザーへ提供するモデルが一般的です。
一方「意味性レイヤー」は、「自分らしさ」や「好き」など、人によって異なる基準や尺度を持つものが対象となる領域です。面白い、センスがいい、かっこいいなど、数値化できない感覚的なもので評価されるため、共通の尺度がないことが特徴です。コンテクストの豊かな「意味性」を持つモノやサービスが強く求められるため、こちらは特定のセグメントに対して高単価なサービスを提供するモデルになります。また、利便性とは違い、多品種小ロットになりやすいという構造があります。