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利便性と意味性から考える顧客提供価値

ブルシットジョブや反労働から考える、大企業の生きる道──佐々木康裕氏と語る、世界観への共鳴と個の支援

ゲスト:株式会社Takram ビジネスデザイナー 佐々木康裕氏

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 『アフターデジタル』シリーズの著者・ビービットの執行役員CCO藤井保文氏は最新著『ジャーニーシフト』の中で、デジタル時代に変化する企業の提供価値を「利便性」と「意味性」の2つの軸で整理することの有効性を説いている。この連載では先進的なサービスの提供者や実践者をゲストに招き、「利便性」と「意味性」を軸に藤井氏と対談。これからのサービス開発のヒントを探る。2回目のゲストは、Takramのビジネスデザイナー佐々木康裕氏。『D2C』『パーパス 「意義化」する経済とその先』などの著書がある佐々木氏の目に世の中の変化はどう映っているのか。

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「反労働」という世界的なトレンド

藤井保文氏(以下、藤井):書籍『ジャーニーシフト』の中で、人々が感じる価値の変化を「意味性と利便性」という2つの軸で整理しています。

 『Lobsterr』(佐々木氏らが配信するウィークリーニュースレター)での発信などでも、D2Cほか世界的なトレンドを追っている佐々木さんは、特に「意味性」についてお考えをお持ちなのではないかと勝手に推察しています。

 ですが、そのような本題に入る前に、まずは佐々木さんの近況をキャッチアップさせてください。最近の興味関心事って何でしょう?

佐々木康裕氏(以下、佐々木):僕はもともと自分の中に特定の分野への強いこだわりがあるというよりは、世の中を見ていて浮かび上がってくるものをうまくキャッチアップしたいと思っているんです。過去に書いた『D2C』や『パーパス』も、『Lobsterr』をやっている中でテーマが浮かび上がってきたもので。

 本を書きたいと思っているテーマはいくつかあるのですが、いま特に面白そうだなと思っているのは「反労働」です。

藤井:「反労働」、ですか。

佐々木:中国では「午前9時から午後9時まで、週6日出勤」という働き方が象徴する「996問題[1]」があり、韓国でもアメリカでも、同じように若い世代がこのような労働観を明確に拒否しています。

 このインパクトはかなり大きい。というのも、アメリカでは金持ちほどよく働く時代が50年くらい続いていました。みなさんイメージが湧くと思いますが、投資銀行やコンサルティングファームで働く人たちってものすごいハードワーカーですよね。そのトレンドが2019年ごろに曲がり角を迎えて、以降、労働時間が下がり続けている。

 「働きたくない」「反労働」と表現するとネガティブに聞こえるかもしれませんが、もしかしたらそれが何かポジティブな変化の兆しかもしれない。そうだとしたら面白いな、と。

 ただ、こうしたトレンドは企業のマネジメント層、経営層からしたら望ましくないものとして映るかもしれない。そこが「D2C」や「パーパス」と違うところで。とはいえ、どこから手をつけていいかわからず、モヤモヤとしているところです。

藤井:なるほど、自分の関心事と重なる部分がありますね。ちなみに、ここで指摘された「働く」にはインフルエンサーやYouTuber、eスポーツプレイヤーなどは入りますか?

佐々木:ああ、それはいい質問ですね。自分の中では入らないと思っています。

藤井:歩くだけで稼げるという「Move To Earn」(代表的なアプリ「STEPN」)などもそうですけど、遊んだりゲームをしたり好きなことを発信しているだけで稼げる時代になりつつありますよね。でも、全員がそのような働き方だと、物を運んだり食糧を作ったりという、エッセンシャルワークが成り立たなくなってしまう。

 これは自分の提案する「利便性と意味性」の整理ととても近い話ですが、ゆくゆくは大企業なり政府なりがエッセンシャルワークを担い、その土台の上でみんなが好きなことをやる、という感じになるのかもしれない。佐々木さんはどう思いますか。


[1]清水 絵里子『中国で社会的議論になった働き方「996」とは?』(日本貿易振興機構/JETRO、2019年7月22日)

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この記事の著者

鈴木 陸夫(スズキ アツオ)

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