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Zero to IPO 

二種の起業家とスタートアップへの人材流入から考える、「コーポレートバリュー」と「人材流動性」とは?

『Zero to IPO』出版記念対談Vol.1【琴坂将広✕朝倉祐介】前編

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 翔泳社より『Zero to IPO 世界で最も成功した起業家・投資家からの1兆ドルアドバイス 創業から上場までを駆け抜ける知恵と戦略』が、4月中旬に発売される。本連載では、日本の起業家や投資家、研究者などと本書に関連したテーマを設定し、対談を行っていく。第1回は、慶應義塾大学 総合政策学部 准教授 琴坂将広氏とアニマルスピリッツ合同会社 代表 朝倉祐介氏の対談をお届けする。ともにスタートアップの経営経験があり、現在朝倉氏は投資家として、琴坂氏は経営学者としてスタートアップ研究にも従事する。前編では、二種の起業家、DeNAやGREEがスタートアップ業界に引き起こした高度人材の流入、そして価値観が一致しない企業で働きつづけることのリスクについて語ってもらった。

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「日本は起業家が少ない」は本当か。タイプの異なる二種の起業家とは

琴坂将広氏(以下、琴坂):起業には、自営業やスタートアップ以外にも「生きるために起業する」というタイプが存在します。他に選択肢がないので自分で仕事を作るということは世界的には珍しくはありません。起業家に関する研究では、これを「ネセシティ・ドリブン・アントレプレナーシップ(Necessity-Driven Entrepreneurship)」、日本語に訳すなら“必要に迫られての起業”と呼んでいます。そしてそれ以外の現在の起業像に近いものを「オポチュニティ・ドリブン・アントレプレナーシップ(Opportunity-Driven Entrepreneurship)」、“機会を前にしての起業”として区別しています。後者には、自分のパッションに基づいて起業し最速でのグロースを目的としない起業家とグロースを目指すいわゆるスタートアップ的な起業家も含まれます。

朝倉祐介氏(以下、朝倉):よく引用されるグローバル・アントレプレナーシップ・モニターの起業活動率(Total Early-Stage Entrepreneural Activities: TEA)の調査[1]では、日本が低い位置に属しています。しかし、起業意欲の高い国々をよく見ると、日本の大企業のように「安定雇用」が見込みづらい国が多く含まれてもおり、まさに“必要に迫られての起業”をせざるを得ない国もあります。

琴坂:おっしゃる通りです。ご指摘のデータでは飲食店の開業なども起業としてカウントされています。つまり、この調査において上位に来るのは、スタートアップが多い地域だけではなく、大企業への就職など安定雇用先が少ないため自分で起業せざるを得ない人が多い国も含まれるのです。

朝倉:逆に言えば、相対的に日本は安定的な働き方の選択肢が多いため、起業せずとも生きていくことができます。社会の豊かさの観点からすれば、それは幸せなことなのでしょう。

琴坂:そうですね。日本では企業で居場所を見つけ、そこでアントレプレナーシップを発揮する「イントレプレナー」、つまり社内起業家が多かった歴史があります。起業家の数だけを見て判断してはいけません。

 歴史をさかのぼれば、特に農業や機械などのものづくりの領域で産業のクラスターが日本各地に形成されたのは事実です。ただ、特に情報通信に関係する新興企業が多数勃興する、いわゆるシリコンバレースタイルのスタートアップのエコシステムは日本では未成熟の時代が続きました。ゆえに、特定の領域において複数のスタートアップが協業しつつ同時多発的にイノベーションを起こすこともこれまでは限定的でした。しかし、近年ようやく日本のスタートアップ業界全体が盛り上がってきていて、経済をドライブできるほどの規模になってきています。

朝倉:インターネット前夜の1980年代後期から1990年代初頭の起業家の面々を思い浮かべると、どこかネセシティ・ドリブンな要素があったのではないかと私は推測しています。もちろん、個々人の能力は高く、高学歴です。ただ、普通の大企業への就職などを志向しない気質や要素をどこかに持っていた。

琴坂:たしかにそうですね。米商務省が日本経済の強みを政府と企業の内部協調関係とした「日本株式会社」という報告書は、1970年代前半には日本でも翻訳[2]され、広く知られるようになりました。その後、バブル崩壊までは日本的経営のスタイルとして存在していました。その枠組みで生きることを選ばない人たちにとっては、起業は必要に迫られてするものだったかもしれません。


[1]一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)『平成 25 年度創業・起業支援事業(起業家精神と成長ベンチャーに関する国際調査)「起業家精神に関する調査」報告書』(2014年3月)

[2]米商務省『日本株式会社―米商務省報告』(1972年、毎日新聞社)

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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