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組織戦略としてのデザイン

日立製作所のデザイン組織に研究者とデザイナーが同居する理由──異なる立場のハブ人財による両利きの経営

ゲスト:株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ 谷崎正明氏、丸山幸伸氏

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 本連載では、先進企業のデザイン組織への取材を通じて組織変革の担い手としてデザイナーが今後果たし得る可能性やそのあり方を探っていく。前編に引き続き取り上げるのは、日立製作所デザインセンタ。デザイン組織を研究開発部門に属する形で置くこと自体が珍しいが、研究者出身の谷崎正明氏とデザイナー出身の丸山幸伸氏という、実質2トップ体制を敷くのも特徴。新体制に込めた狙いを前後編にわたり聞いた。連載ナビゲーターは、武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授で、ビジネスデザイナーの岩嵜博論氏。

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デザイナーと研究者が、異なる役割のハブ人財に

岩嵜博論氏(以下、敬称略):組織のサイロ化、部門間連携は多くの企業で課題になっています。日立製作所では社会イノベーション事業を進める上でどのように事業部間連携をしていますか。その仕組みや工夫などあれば教えてください。

谷崎正明氏(以下、敬称略):社会イノベーション事業は大きくデジタル、グリーン&モビリティ、インダストリの三つの領域に分かれるのですが、それらは単独で成立するものではなく、事業構造上、領域間の連携が不可欠になっています。

岩嵜:日立製作所のようなコングロマリット型の大企業では非常に難しいことだと想像するのですが。

谷崎:そこで活躍するのがデザイナーと研究者が同居するデザインセンタです。前編でもお話したように、研究者はコア技術を携えて事業部門へ出向することが常ですし、デザイナーもさまざまな事業部門からのオーダーを受けて仕事をしています。

 事業部同士では確かにお互いが何を行っていて、どんな人財がいて、どんな課題を抱えているのかを把握できない面があるでしょう。ですが、その間を行き来するデザイナーや研究者であればできます。もちろんすべてがうまくいくことばかりではないですが、部門間をつなぐハブ人財としての役割を担う例がすでに出てきています。

 また、デザインセンタがとある事業部門と出した成果をほかの事業部門に移植するという例もあります。

丸山幸伸
株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ 主管デザイン長 丸山幸伸氏

丸山幸伸氏(以下、敬称略):「コア技術」は、まずは特定の事業で成果を出すことが求められます。ですがその名の通り、その成果は本来、横展開されるべきものでもあります。それこそがコングロマリット・プレミアムを生み出すアプローチであり、デザインセンタの価値だと考えています。

 日立の白物家電のヒット商品にドラム式洗濯乾燥機の「ビッグドラム」があります。世界初の「風アイロン」機能を備えたことが特徴ですが、このコア技術を開発した研究者は高速鉄道車両の空気力学を研究している人物だと聞いています。この人物が特別変わり者ということではなく、これがデフォルトなのだと各時代の研究所所長は強調しています。

岩嵜:デザイナーが部門間をつなぐ役割を持つという点はどうでしょうか。

丸山連載初回の記事で岩嵜さんもおっしゃっていましたが、デザイン人財の特徴の一つに「統合(synthesis)」がありますよね。

 すでにお伝えしたように、日立製作所のデザイン組織ではジョブローテーションが頻繁に行われています。私自身も情報系のデザインをしつつ社会インフラのデザインを並行して行っていたりする。それが当たり前の組織文化になっています。

 一見、別領域のデザインをしているように見えますが、解像度を上げたり下げたりしながら行き来しているうちに、双方に共通するメタ概念のようなものに昇華されることがあります。岩嵜さんのおっしゃっていた「鳥の目、虫の目」に通じる話かもしれません。

 デザイナーもまたこうした能力を活かして部門間をつなぐ役を果たすことができると感じます。それぞれ違うアプローチであるものの、デザイナーと研究者はどちらも弱い紐帯におけるハブ人財になり得るという言い方ができると思います。

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この記事の著者

鈴木 陸夫(スズキ アツオ)

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