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組織戦略としてのデータとCX

データで結ぶ、戦略と実行──デジタル庁 樫田氏に聞く、実践的なデータドリブン経営とは?

【後編】デジタル庁 Head of Unit, Fact & Data 樫田光氏

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専門性とそれをつなぐ調整スキルというコスト、融和という軸で働ける社会

──今回のお話は専門性を持った新たな組織がどのように既存組織内で価値を示し、既存組織をエンパワーするのか。そんなお話のように感じました。大規模組織で専門性が発揮されるために重要なことはありますか。

 私自身、データ分析の専門家でもありつつ、複数の部門をつないで仕事をしているという立場にいるのですが、部署をまたいだ連携の仕組みについてはあまり機械的には考えないようにしています。それよりも、全員が少しずつ思いやりを持つべきだと考えています。やはり「融和」がキーワードです。大きな話になりますが、“つながなければいけないこと”という前提自体を見直してもよいのかなと思っています。

──どういうことでしょうか。

 近代社会の特徴の一つは、生産性が著しく高い社会構造を構成できたことだと言われていますよね。そして、それは多くの組織が水平分業制をとっているからだと一般に説明されます。つまり、縦のコミュニケーションさえうまく円滑にできれば、専門家たちが水平分業して自分の専門分野の作業だけに没頭することで全体の生産性は上がるということです。言い換えれば、工場のラインや、サプライチェーンを機械的に構築すれば、より効率的に商品が作れるということですよね。

 しかし、水平分業したことで生まれたネガティブな要素もあります。思いやりや想像力が弱くなるという現象です。それが現実に起きているからこそ、「人々が機械のようになってしまう」という懸念が、産業革命以降、研究者や文化人など、至る所で繰り返し提起されています。本来は、材料の仕入れから商品の提供までを一人で行うというのが、働く人も顧客も満足度がもっとも高いはずです。例えば、寿司職人の仕事のように。

 また、もう一つの問題は、縦をつなぐコミュニケーションの難易度が上がっていっているということです。個々の専門性が分化し、それらを融和的につなぎ合わせていくことのコストが上がっている。

樫田光

 アメリカを中心として大企業の多くでは、分業が進んだことで労働者の賃金は抑えられ、その代わり労働者を束ねる立場にある、融和力の高い経営者は何百倍も報酬をもらっています。この原理はチーム単位でも適用されているように思います。手を動かすのが上手な、エンジニアやデータサイエンスの専門家たちと、それを束ねられるマネージャーであれば、後者の報酬が多いのが今の社会の構造です。

 現状、専門家を束ねて縦のコミュニケーションを調整し、マネージする経営者は年収が高い。だからこそ、経営者を育てるためのMBAなどの仕組みが生まれ、産業としても発展してきました。市場メカニズムだけで融和的な態度やリーダーシップを養成するには、こうした形しかないかもしれませんし、これは一つの答えだと思います。

 私は現実の落とし所としては納得していますが、この分業の仕方自体に疑問を持っているのも事実です。もちろん、皆が専門性とそれをつなぐスキルの両方を身につけるのが無理なことも事実ですが、一部の人だけが調整役を担う世界が美しいとは思えません。

──なるほど。では、今のお話を含めて、樫田さんが今後取り組みたいと考えていることをお伺いします。

 専門家が専門家として力を発揮し、大規模組織でもそうでない組織でもお互いに敬意を払い、融和という軸で働ける社会とは何か。そんなものを研究していきたいと思っています。そうした、大きな構造を対象にした仕事をこれからもしていきたいです。政府は上位の構造に見えることもありますが、必ずしもそうではありません。それこそ資本主義や民主主義、立憲主義といったより大きな構造や仕組み、政治を規定している社会全体の風潮などにも興味があり、社会・人文学に目が向いています。そうした分野と、これまで組織で積んだ経験を重ね合わせたいと考えています。今からは難しいでしょうが、研究にも興味があります。実際にできれば最高ですね。

──本日はありがとうございました。


■前編『デジタル庁樫田氏に聞く、データ分析組織にとって大切な「構造理解と融和的な振る舞い」とは』を読む

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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