組織遂行能力が「令和の経営」の鍵。人的資本経営が必要となる理由
──前編では、人口減少と世の中の不安定さをどの程度深刻に捉えているかによって、各社の人的資本経営に対する態度にも差が出ているという見立てが示されました。田中さんのフレームワークについて、もう少し詳しく聞かせてください。
この図の横軸は人口減少や人手不足の影響、縦軸は世の中や経営環境の不安定さを表しています。
昔は人手不足ではなかったし、M&Aも一般的ではなく、「両利きの経営」の必要が叫ばれることもなかったですよね。でも、今は製造業でもファブレス経営が進行していたりして、不安定さが増しています。そしてAIが、不安定さに拍車をかけているようにも見えます。
こう考えると、日本はすでに左下の状態にはなくて、どんどん右上に行かざるを得なくなっている。そうなると、必要な戦略は前例やセオリーに従うということではなく、新しい組織遂行能力の獲得や引き上げが必要だということになります。それに加えて人口減少で、希少なスキルを持った人材の価値がどんどん上がります。だから人的資本経営が必要なんです。
結局、人的資本開示が難しいと言っているのは、まだ左下の意識でいるからなんですよ。今の時代に適した組織遂行能力の重要性を感じていないんですね。でも、今後は全ての企業が組織遂行能力について考えていかないといけないんです。
──それを理解しているかどうかが、開示の内容にも現れるわけですね。
はい。2023年の開示を見ていると、まだまだ株主ばかりに意識が向いているなという印象がありました。
最近では機関投資家も「社員口コミサイトである『OpenWork(オープンワーク)』のデータを見てます」と発言されています。企業の方は株主に対してコミュニケーションしているつもりでも、株主は全然別のところから情報を得ていたりするんです。これからは株主だけでなく、社内の人たちと社外の求職者に対して情報を発信するということが課題になってくると思います。
──株主との対話も、もっと必要なのではないでしょうか。
そうですね。ただ、そこは今までの話と矛盾しないはずです。
人口減少が進み、不安定さが増していくと、例えば内需依存型の業種で地方にたくさん拠点があるような企業は明らかに影響を受けます。そうすると組織的な遂行能力が高めないといけないし、高めてくれるような才能を確保することが非常に重要になってきます。その企業の株式を長期に保有しようとする投資家が聞きたいのも、経営戦略や事業戦略よりも、その戦略を実行するための組織遂行能力をどう高めるかという話になるはずなんですよね。