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実践フェーズの人的資本経営

松田千恵子氏と語る、日本企業のガバナンスと人的資本経営の現在地──開示の義務化が開く、パンドラの箱

【前編】ゲスト:東京都立大学大学院 経営学研究科 教授 松田千恵子氏

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取締役会が機能していなかった2015年以前の日本企業

田中弦氏(以下、敬称略):僕の認識では、今の日本企業が置かれている状況は、この図の左下から右上へとどんどん移行しています。

人的資本経営
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 昭和の時代に典型的だった左下の環境では、前例やセオリーを忠実に実行するための「戦略」が重要でしたが、令和の今は、中期経営計画の達成やパーパスを実現するための「組織的遂行能力」の獲得が経営の重要事項となっています。そのことと人口減少も相まって、希少なスキルを持った人材やより多くの人の頭脳を結集させて組織の力にするための組織的遂行能力の価値がどんどん上がります。それこそが人的資本経営で、そのためには社外だけではなく社内のステークホルダーと絶え間なくコミュニケーションを行うことが必要になってくるという理解です。

 人的資本経営というと人事に限定した話のように思われがちです。でも本来は経営のテーマで、ガバナンスがかなり重要になるはずですよね。実際、日本企業のガバナンスはここ10年くらいで大きく変わってきています。でも、それとパーパス経営や人的資本経営の流れとがどうリンクしているのかを上手く解説しているものはあまりないと思います。このような課題感から、今日は松田先生に来ていただいたので、その点を明らかにできれば嬉しいです。

松田千恵子(以下、敬称略):ありがとうございます。

田中:まずはこの10年間、特にプライム上場企業のガバナンスのあり方がどう変わってきているのか、解説いただけないでしょうか。

松田:日本の企業のガバナンスへの取り組みは、おそらく3ステージに分けることができます。最初の転機は2015年で、そこから「第1ステージ」が始まっています。

田中:結構最近ですね。

松田:はい。その前の90年代後半から2015年までの間は「ステージ0」の期間が長く続きました。この頃にメインバンクガバナンスからエクイティガバナンスへの移行があり、企業の経営を監視するのが、債権者である銀行から株主へと変わっていきました。

 ですが、それによって企業のガバナンスが変わることはありませんでした。企業はアクティビストの標的になったりして大変な思いをしたわけですが、「とにかく株主対策をしなければ」ということに終始していました。

田中:「対策」って、ちょっと嫌なものに対して使う言葉ですよね。

松田:嫌な人が来て何か言われたらどうしようとか、そういう感じでしたよね。そこでは取締役会の役割なんてほとんど議論されていませんでした。だから「ステージ0」なんです。2015年以前は、取締役会は執行の意思決定をするところという認識だったり、本当の意思決定は経営会議でやって取締役会は単なるお飾りだったり、という状況でした。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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