イノベーション先進国スウェーデンでの「大学を中心としたエコシステムづくり」
まず、Japan Innovation Network(JIN ジェイ・アイ・エヌ)が実施する「IMSAP Global Studio」というプログラムの一環でスウェーデンのイノベーションエコシステム視察に参加した大嶋洋一氏(東京科学大学 副学長 産学共創機構 機構長)から、その内容について発表があった。
このプログラムの参加者はスウェーデンを代表する先進企業や地域エコシステムを巡り、最新のイノベーションマネジメントシステム(IMS)を学ぶ。一行はスウェーデン国内の3都市を巡る中で、Nimway(ソニー)やエリクソン、IKEA、アストラゼネカ、テトラパック、ルンド大学といったリーディングカンパニーや大学を訪問。企業、地域、国、EU主導のエコシステムを巡り、IMSを軸とした最先端の取り組みについて学んだ。
大嶋氏は、スウェーデンのエコシステムの特徴は、国内外のネットワークがシームレスに連携していることだと話す。特に、エコシステムの活性化を通じて地域の生産性が向上しており、そのために自治体や地域団体が対立することなく協力している点が印象的だという。日本では自治体同士、自治体と企業との連携が課題となるケースが散見されるが、スウェーデンではそうした障壁がなく、一体感をもって進む仕組みが整備されている。
さらに地域独自のイノベーションハブが形成され、ネットワークが強固に結ばれている点も注目に値する。特に、大学や研究機関がイノベーションネットワークの中核を担い、専門性を持つイノベーション人材を育成している。この仕組みについては、イノベーションマネージャーやディレクターといった職種が広く認知されているだけでなく、行政、企業、アカデミア間で人材が自由に移動できるキャリアパスの存在にも反映されている。こうした文化の釀成もまた、次世代のイノベーションを支える重要な基盤となることを改めて再認識したと同氏は言う。
また、デンマークのコペンハーゲンに最も近い(連絡橋で一時間)マルメ市には、日本との交流を狙いとしたイノベーション拠点「JAPAN Business and Innovation Hub」が設置された。このハブは、地域のエコシステムが国際的なパートナーを結ぶ拠点として期待されている。大嶋氏は、こうした仕組みがグローバルな視点からの価値創出に繋がっていることを強調し、日本にとっても大きな機会となると述べた。
加えて、オープンイノベーションを支える先進的な仕組みの紹介もあった。例えば、北部の街ヨーテボリでは、製薬大手アストラゼネカが「バイオベンチャーハブ」という場を設け、バイオ系スタートアップ企業と積極的に連携している。このハブは、世界中から多様な人材やビジネスを受け入れる拠点となっており、地域全体の競争力を高める鍵としても機能しているという(これは、「再現性のあるイノベーション経営の型」でもとりあげたオープンイノベーション3.0のコンセプトを体現している例である[1])。
[1]『NTT西日本の共創の場「QUINTBRIDGE」で始まる日本のオープンイノベーション3.0』(Biz/Zine)
日本の大学を中心としたエコシステムの課題
また、ルンド大学が創設に関わった「メディコンビレッジ(Medicon Village)」というエコシステムも注目に値する。この仕組みでは、大学発スタートアップの育成を支援するための体系的な制度が整備されている。特に、学生と研究者を区別せずにイノベーション施策を取る日本の大学とは異なり、それぞれのニーズに応じて支援体制が構築されている点が特徴的だ。また、知的財産の取り扱いについてはスウェーデンでは研究者が自身で特許を保有することが可能だ。
一方で、日本では発明が大学に帰属する仕組みが一般的で、研究者がスタートアップを設立する際も大学からライセンス提供を受ける必要がある。これらの制度の違いが、研究者や学生の起業意欲やモチベーションに影響を及ぼしている可能性があると指摘した。