「CLOの選任義務化」は経営を転換する好機
真畑:欧米に比べると全体最適化の意識が低いとのことですが、日本企業と欧米企業の違いはどこにあるとお考えでしょう。単に日本が遅れているだけなのか、それとも何か別の要因があるのでしょうか。
小野塚:欧米企業では、CLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)やCSCO(チーフ・サプライチェーン・オフィサー)と呼ばれる、物流やサプライチェーンを管掌するCxOが経営陣にいるケースが多いのですが、大半の日本企業には同様の役職の経営メンバーがいません。つまり、物流やサプライチェーンに関するミッションをメインで担う専任の人間がおらず、そこで課題が生じても他の経営事項から劣後してしまいます。
それをある種カバーしてきたのが、日本企業が強みだとする“現場力”だとも思いますが、結果として声の大きい生産部門や営業部門の意見が通ってしまい、極めて重要な物流の視点が抜けてしまいがちなのです。
ただ、最近は上場企業を中心に、いかに収益性を高めるか、資本効率を高めるかを重視するように変わってきています。CLOの選任義務化も、むしろ積極的に進めることで収益力は高まるでしょう。規制を負担だと捉えずに、経営を転換する好機だと考えてもらえたらと思います。
真畑:外部環境も変わるなかで今後、サプライチェーン・物流の領域にはどのようなビジネスチャンスがあるとお考えでしょうか。
小野塚:荷主企業で可能性があると思うのは、たとえばニトリのように、自分たちが作り上げたサプライチェーンのプラットフォームを他社へ開放することです。これによって物流をコストではなく、プロフィットセンター化することができます。
一方で物流会社は、提案力を磨くことでチャンスが生まれるのではないでしょうか。プロスポーツの世界ではインセンティブ契約というものがありますが、物流会社も「トラックの必要台数を3台から1台に抑えるので、2台分の料金をいただけませんか」といった契約をする。すると、物流会社も荷主企業も、Win-Winになりますよね。ただ荷物を運ぶだけではロボットや自動運転といった技術に取って代わられる可能性がありますが、逆にテクノロジーを駆使してサプライチェーン最適化のための提案ができるかもしれません。
真畑:物流会社は提案力を磨くことが大切だということですね。一方で、従来の方法を変えるのは難しい面もあるかと思います。どのようなアクションをとるとスムーズに転換が進むと思われますか。
小野塚:「ティーチャーカスタマー」を見つけるといいのではないでしょうか。物流費を抑えたい、サプライチェーン全体を最適化したいといった要望を伝えてくる顧客企業は、物流企業からは“面倒くさい”相手だと感じるかもしれません。ただ、そうした要望に応えるために工夫したこと、出荷効率や配送効率を上げる方法などを、他の企業への提案に活かせば大きな変革につながると思いますね。