CVCがスタートアップに提供できる最大の価値は?
CVCの投資戦略において、各社で差がつきやすいポイントは、「財務リターンと戦略リターンのバランス」だ。VCと同様に純粋な財務リターンを狙うのか、自社事業とのシナジーに期待するのか、あるいはその両方を取りに行くのかによって、投資の方向性は大きく変わる。この背景を踏まえて立山氏は、財務リターンと戦略リターンのどちらを重視するかを尋ねた。
ポーラ・オルビスホールディングスの前澤氏は、「双方のバランスを取ることを心がけている」と回答した。財務リターンだけを目的とするなら、多くのファンドが存在する中で、あえて自社が投資する必要性はない。一方で、事業シナジーのみを重視するのであれば、あえてスタートアップとの協業をするより、一定規模まで事業成長した会社と協業したほうが、安定した取り組みが可能になる。そこで、一定の財務リターンが期待でき、将来的には協業も見込める領域の企業に投資するという方針を取ってきた。これにより、CVCとして利益を上げ続けながら、自社独自のポジションを確立できているのではないかというのが、前澤氏の見解だ。
では、逆にCVCがスタートアップに提供できる価値とは何なのか。立山氏のこの問いに対し、第一三共ヘルスケアの時久氏は、「資金的なサポート」だと言い切った。同社は、ミノンやトランシーノ、ロキソニンといった代表的な製品ブランド群を有するが、他社にも同様に多数の製品ブランド群があるため、究極的な差別化ポイントにはならない。結局、CVCはスタートアップにとって「資金調達のための一手段」に過ぎないという。
![第一三共ヘルスケア株式会社 経営企画部 事業開発グループ CVCシニアマネージャー 時久航一氏(写真左)](http://bz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/11144/11144-1.jpg)
時久氏がこう語るのは、スタートアップに参画した際、資金が底をつく危機に晒されたという実体験があるためだ。だからこそ、スタートアップの最大の悩みである資金を提供することが、CVCの前提的な役割になると考えている。
資金提供に力を入れているのは、京都キャピタルパートナーズも同様だ。同社は、2024年9月に、100億円規模のスタートアップ向けファンドを新設した。村田氏によると、元々は20億円のファンドだったが、政策保有株式の縮減で資金が生まれたことや、1号ファンドのクローズが迫る中でさらなる挑戦の機運が高まったことを受けて、大規模ファンドの設立に至ったという。この取り組みに対して立山氏は、「京都キャピタルパートナーズの主要投資先であるディープテックは、初期投資額が大きいビジネスモデルのため、このファンドが良い受け皿になるのでは」と評価した。