社内ハッカソンが共創の場へ。FUJI HACKの変遷
──はじめに、FUJI HACKの概要と、御社の取り組みにおける位置付けについて教えてください。
吉越輝信氏(以下、吉越):FUJI HACKとは、大企業の多業種・多職種の人材が集まり、社会やビジネスの課題解決に向けてアイデアを生み出すイベントです。
富士通では、2020年10月に全社DXプロジェクト「Fujitsu Transformation(フジトラ)」を本格始動し、その一環として2021年11月に新規事業創出プログラム「Fujitsu Innovation Circuit(FIC)」を立ち上げました。
FICの中心は、アントレプレナーシップ人材の“学びの場”である「Ignition」と、事業創出に挑む“実践の場”である「Challenge」という社内向けの2つのプログラムです。これらに加え、「社外連携」として他企業と知見を共有しながらイノベーションを探る“実験の場”作りにも励んでいます。その取り組みの一つが、FUJI HACKです。
──新規事業創出プログラムに「社外連携」が組み込まれている点がユニークですね。
殿村亜希氏(以下、殿村):FUJI HACKは元々、社内の若手SEが主体となるハッカソンとして2014年にスタートしました。当時は「ハッカソン」という手法自体が新鮮だったこと、またFUJI HACKから生まれた事業の種が成長するケースもあり、この形態でしばらく続きました。実際、FUJI HACK 2019で優勝したアイデアが起点となって開発が進み、2025年6月には「Fujitsu AI Auto Presentation」として発表するに至っています。
ところが、コロナ禍でのオンライン開催を経て2022年に対面開催を再開した際、社外からの参加が増えました。そこで2023年に制作実行委員会形式へ移行し、20社以上が企画運営に参画するようになりました。2024年には63社173名が参加し、2025年には開催頻度を大幅に増やすなど、年々規模を拡大し続けています。

大企業共通の課題の解決へ。社外に門戸を開いた理由
──社外の参加者を受け入れるようになった背景には、どのような事情があったのでしょうか。
殿村:FICの開始から約1年が経過し、「大きな事業の種をどう生むか」といった課題が顕在化したことがきっかけです。打開策のヒントを得ようと、事業提案制度を運営する様々な企業にヒアリングしたところ、他社も同じような課題を抱えていることに気づきました。それなら、企業間の緩やかなコンソーシアムを作り、事業開発の課題を共有して解決していく方法もあると考え、FUJI HACKを社外に開放することにしました。

吉越:事業開発では、いかに多くの打席に立つかが重要です。大企業は特に自社に閉じこもりがちなので、企業の垣根を超えた出会いを増やし、互いの知見を掛け合わせて新たな発見やアイデアを得られるようにすべきだと考えました。
──参加者だけでなく、企画運営も社外に開放するようになったのですね。
吉越:“横並びのパートナー”になるには、一緒にイベントを作り上げる仕組みが不可欠でした。富士通が単独で主導する限り、いつまで経っても“ベンダーとお客様”という関係を超えられませんから。
殿村:共同で企画運営に取り組むことで、互いの社内における取り組みも見えやすくなりますし、関係性もより一層深まると考えています。
──さらに2025年から、開催頻度を増やしたのはなぜですか。
吉越:年1回だと非日常の「お祭り」で終わってしまい、開催エリアも必然的に限定されます。事業開発の打席を増やすためにも、毎月どこかで当たり前のようにFUJI HACKが開催されている世界観を実現しようと考えました。
