貧乏くじになる要因/組織崩壊につながる負のループ
こうしたギャップの根本的な原因は、やはり新規事業に関するプロセスや考え方に「共通認識」がないまま、アウトプットである新規事業案だけでコミュニケーションを図ろうとすることにあります。
現場側が毎回具体的な事業案を提示しても、経営側には共通認識がないため、その時々で異なる指摘がなされます。
たとえば、「事業規模が小さい」「自社のケイパビリティが活かされない」「成果までの時間軸が長い」「既存事業とカニバリゼーションを起こす」「リスクが高すぎる」「リソースが足りない」「もっとリカーリングのようなことをやりたい」「ビジョンで掲げている提案をしてほしい」「投資先ともっと連携してほしい」……など。経営側からも、様々な立場のメンバー(社長、経営企画担当役員、既存事業の担当役員など)から、異なる観点での指摘が飛び出します。毎回指摘が異なるため、現場側は「結局、何が正解なのかわからない」状態のまま、延々とループを繰り返すしかないのです。
このようなギャップが存在する中で新規事業を推進することは、組織にも深刻な問題をもたらします。代表的な2つの問題を見ていきましょう。
1.専門組織の解体と人材流出
「現場と経営のギャップ」が深刻になると、すれ違いからお互いのフラストレーションが溜まります。現場は「解のないお題」に延々と取り組んでいるように感じ、モチベーションの低下を招くだけでなく、上層部に迎合してやり過ごすだけになる、最悪の場合は退職してしまうケースもあります。
一方、経営側は、いつまで経っても成果が出ないため、前述のようにトップダウンで推進を図りますが、現場がついて来られず、大風呂敷を広げただけで終わってしまいます。新規事業にリソースを投下しても成果が出ないため、社内外からの風当たりも強くなる一方です。その結果、「金食い虫」「コストセンター」「遊んでいるだけ」といった烙印を押され、組織そのものの評価も下がってしまいます。
最終的には、組織が見切りをつけられ、「発展的解消」という名目で責任者を交代し、新しい組織に形だけ変えるといった事態が起こります。これでは、新規事業の知見が組織に蓄積されず、また新しい組織を作って同じことを繰り返すという悪循環に陥るのです。

2.外部人材の定着困難
では、新規事業創出に関するケイパビリティやノウハウの確保を目的に、外部人材を登用した場合はどうでしょうか。確かに彼らには知見があるかもしれませんが、ここまでご説明したように「現場と経営のギャップ」は組織的・文化的な課題であり、個人の力だけで状況を変えるのは困難です。
また、新規事業に必要なスキルは、リーダーシップ、ビジョン策定力、事業アーキテクチャの設計力、専門性、そして事業へのコミットメントなど多岐にわたります。仮に求める人材要件をクリアできたとしても、先ほどのギャップによっていつまでも事業が進まないと、焦燥感に駆られてモチベーションが低下したり、期待されていた役割を果たせないまま、苦労して採用した優秀な人材が退職してしまったりするケースも頻発します。
結果として、誰も新規事業に取り組みたがらない、「新規事業は貧乏くじだ」という最悪の状態に陥りかねないのです。