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AIエージェント時代の事業と経営

競争優位の源泉は「データ、CX、ビジョン」──ラクスCAIOが重視する、企業独自の暗黙知の可視化とは

ゲスト:株式会社ラクス 取締役 兼 CAIO(Chief AI Officer) 本松 慎一郎氏

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深い業務知識のような企業独自の暗黙知が武器になる

栗原:AIをうまく使いこなすために、個人にはどのようなスキルが求められますか。

本松:特に重要になるのが、「目的意識(自分は何をしたいのか)」と「アウトプットを見極める力(知識・経験)」です。AIはあくまでツールであり、「AIに何をさせたいのか」「AIのアウトプットをどのように事業や業務に活かしたいのか」という明確な目的意識がなければ、その能力を最大限に活用することはできません。

 また、AIの出力が本当に正しいのか、ビジネスに活用できるレベルなのかを判断するには、その業務に対する深い知識と経験が不可欠です。AI時代には、特定の領域で長く働き、暗黙知を含めた深い業務知識を持つ「職人」のような人材の価値が、むしろ高まっていくと考えています。

 実際に当社でも、特定のプロダクトに10年以上関わってきたベテラン社員が、生成AIを使いこなすことで、他の社員の5倍、10倍のアウトプットを出すという事例が生まれています。

AI活用を全社に浸透させる方法とガバナンス体制

栗原:AI活用が一部門のPoCで終わらず、経営レベルにまで浸透するためには何が必要でしょうか。

本松:「いきなり完璧な100点を求めないこと」が重要です。現段階では、AIを活用することで何を達成できるのかはやってみないと分からなかったり、上手くいかなかったりすることも多いのが実情です。まずは現場で試行錯誤をしてみて、それを元に人材育成を含めたPDCAサイクルを回していくアプローチが有効です。

 そして、経営レベルの取り組みにするためには、P/L(損益計算書)へのインパクトを常に意識することです。そのAI活用がコスト削減(利益創出)に繋がるのか、あるいは顧客への提供価値向上(売上向上)に繋がるのかを定量的に観測し、全社的な業績の向上に貢献できているかを確認することも必要です。

 当社でいえば、これまで積極的な採用を通して従業員規模を拡大してきましたが、今後はAI活用で一人当たりの生産性向上が見込まれるため、人員増加ペースの抑制につながると見ています。未来の人件費を抑制する一方で、既存従業員のアウトプット量は増えるわけですから、ベースアップなどを通して、しっかりと努力に報いる経営を心がけています。

栗原:全社でAIエージェント活用を推進するうえでのガバナンス体制については、どのように考えをお持ちでしょうか。どの役員の傘下で所管すべきかという議論もあります。

本松:まだ最適解は見えていないのが正直なところです。ただ、AIのテクノロジー面と社内業務などビジネス面の両方に解像度がある人材が責任者に向いているとは思います。単にシステム導入を行うだけでなく、業務全体を俯瞰してシステム化をリードできるCIOや、お客様の課題解決まで踏み込めるCTOであれば、AI活用の責任者という職責をうまく担えるでしょう。

 重要なのは、その役割を担う人物が経営レベルでコミットすることです。当社においては、もともと取締役としてCOO的な立場を担っている私がCAIOを担うことで、AI活用を経営マターとして強力に推進しています。

栗原:最後に、AIと共に働く未来に向けて、読者へのメッセージをお願いします。

本松:AIエージェントの登場は、働き方を根底から変える大きな変化ですが、脅威として捉える必要はありません。むしろ、煩わしい業務から解放され、人間がより創造的で付加価値の高い仕事に集中できるチャンスだと考えています。

 重要なのは、AIを使いこなせるかどうかです。AIをパートナーとしてうまくマネジメントできる人とそうでない人の間では、生産性に大きな差が生まれるでしょう。当社では、そうした未来を見据え、全社員のAIリテラシー向上に力を入れています。AIと共に成長し、新しい価値を創造していく。そんな未来に向けて、皆さんと共に挑戦していければ幸いです。

本松慎一郎

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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