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AIエージェント時代の事業と経営

競争優位の源泉は「データ、CX、ビジョン」──ラクスCAIOが重視する、企業独自の暗黙知の可視化とは

ゲスト:株式会社ラクス 取締役 兼 CAIO(Chief AI Officer) 本松 慎一郎氏

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AI時代の競争優位を築く「独自データ」

本松慎一郎
株式会社ラクス 取締役 兼 CAIO(Chief AI Officer) 本松慎一郎氏
2001年4月、アイティーブースト(現ラクス)立ち上げに参画。SaaS事業を牽引し、「楽楽精算」「楽楽明細」など主要クラウド事業を統括。2021年6月に取締役就任。2025年7月より現職であるCAIO(Chief AI Officer)を兼務し、全社的なAI戦略の強化と推進を牽引している。

栗原:AIエージェントの活用が当たり前になると、企業の競争優位性はどこで生まれるのでしょうか。

本松:競争優位の源泉は、大きく3つに集約されると考えています。それは「1:独自データ」「2:顧客体験(CX)」「3:ビジョン」です。インターネットの活用が当たり前になったように、いずれAIの活用も当たり前に行われる時代が来ます。その際、AIを活用できないことは不利に働いてしまうでしょう。そうしたなかで他社との差を生むのが、この3つの要素です。

栗原:1つ目の「独自データ」について、詳しくお聞かせください。

本松:生成AIは、Web上にあるようなデジタル化されたパブリックな情報は学習済みですが、企業内にしかないプライベートな情報は知り得ません。しかし、ビジネスにおける重要な意思決定の多くは、このプライベートな情報、つまり社内ナレッジや顧客データといった「独自データ」に基づいて行われます。

 以前はデータの整合性を保つために、データをより効率的で保守しやすい構造に再編成する情報の正規化が必要だったので、データを保有しているだけでは価値が出にくかったのですが、今はこうした正規・非正規の膨大なデータを保有していること自体が、AI時代における強力な武器になります。

 当社で言えば、長年の事業活動で蓄積してきた十数万社もの顧客情報やそれに紐づくナレッジがそれに当たります。たとえば経費精算で考えると、お客様のシステム利用データに関して、個人情報などを除いた形で分析し、「承認フローの中でどういうケースでエラーが起きやすいか」といった知見を、不正検出機能の精度向上につなげることもできます。

 当社以外にも日本には歴史の長い企業が多いので、社内に蓄積したデータをきちんとデジタル化して活用すれば、よりよいAI活用や他社との差別化に繋げることができると思います。

「人間」にしか生み出せない価値とは何か。「CX」と「ビジョン」

栗原:2つ目の競争優位性である「顧客体験(CX)」についてはいかがでしょうか。

本松:当社のサービスはお客様ごとの複雑な業務フローを変えずに柔軟に利用できる点を強みとしていますが、その分、導入時の設定が複雑になることがあります。こうした部分をAIがサポートすることで、手間を削減しつつも、お客様が本当に困っている課題を汲み取り、解決に導くことができます。

 また、エンドユーザー側から見ても、今まで人間が全ての情報を手入力していたような作業を、AIエージェントは最低限の入力内容や過去のデータから適切に処理を進めてくれるので、大幅な負担減となります。

 とはいえ、人を通じた仕事は0にはなりません。たとえば、営業において契約の意思決定を促したり、カスタマーサクセスにおいてシステム導入をスピーディーに進めたりするための社内調整をお願いしていくような業務があります。これらには人と人とのコミュニケーションが重要で、今後も人の介在が必要となります。そうした仕事にはしっかりと経験を積んだ人員による対応が必要であり、CX向上には欠かせません。こうした「AIが対応できない領域」で強みを発揮できるかも、差別化のポイントとなるでしょう。

栗原:3つ目の「ビジョン」が重要になるのはなぜでしょうか。

本松:AIは過去のデータから最適解を導き出すのは得意ですが、未来を創造する「ビジョン」や、他社との違いを生み出す独自の「戦略」を描くことは、現状は、まだ不得意です。今後、AIによってオペレーション業務の差はどんどんなくなっていくため、「我々は何を目指すのか」「どういう方向性で課題を解決するのか」といった企業の存在意義、つまりビジョンや戦略の重要性が相対的に高まっていくと考えています。その旗を振るのは、間違いなく人間です。

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深い業務知識のような企業独自の暗黙知が武器になる

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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