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AIエージェント時代の事業と経営

競争優位の源泉は「データ、CX、ビジョン」──ラクスCAIOが重視する、企業独自の暗黙知の可視化とは

ゲスト:株式会社ラクス 取締役 兼 CAIO(Chief AI Officer) 本松 慎一郎氏

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 2025年は「AIエージェント元年」とも言われ、自律的に思考しタスクを実行するAIがビジネスの常識を塗り替えようとしている。単なる業務効率化の「ツール」から、共に働く「パートナー」へと進化するAIと、企業そして個人は、どう向き合うべきか。その活用の巧拙が、企業の盛衰を分ける時代が目前に迫っている。SaaS業界をリードし、AI活用を経営戦略の中核に据えるラクス。連結の従業員規模が3000名を超える同社で全社的なAI戦略を牽引するのが、取締役 兼 CAIO(Chief AI Officer)の本松慎一郎氏だ。本松氏は、AIエージェントの活用が当たり前になる時代において、企業の競争優位性は「独自データ」「顧客体験(CX)」「ビジョン」の3点に集約されると語る。本記事では、ラクスにおけるCAIOの役割とミッション、AIエージェントの本質、そしてAIを経営インパクトに直結させるための具体的な方法論について、同社の実践知を交えながら深く掘り下げていく。

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CAIOが担う「事業貢献」へのコミットメント

Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):まず、ラクスにおけるCAIOの役割とミッションについて教えてください。

本松慎一郎氏(以下、本松):当社におけるCAIOのミッションは、AI活用を売上や利益といった業績向上に直結させることです。社内でボトムアップ的に始まったAI活用の取り組みを全社的な経営方針に落とし込み、戦略的に推進する役割を担っています。

 具体的には、「社内業務の効率化による生産性向上」と「当社が提供するサービスへのAI機能実装による顧客価値向上」の両輪でアプローチしています。これらは、次期中期経営計画(2027年3月期~2029年3月期)の目標達成に不可欠な要素であり、CAIOである私には事業貢献への強いコミットメントが求められています。

栗原:AIの具体的な活用アプローチについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。

本松:大きく分けて2つのアプローチがあります。1つ目は、お客様の業務改善に貢献するためのAI活用です。当社は業務改善のためのサービスを提供しており、AI技術でお客様がさらなる業務効率化を実現できるようにしていくことが使命です。

 生成AI登場以前は、ディープラーニングによる画像認識技術を活用したOCR機能で、アナログデータからのデジタル化を支援してきました。生成AIやAIエージェントの登場後は、「お客様の業務にどう役立つか」という観点から、社内にAIエージェント開発の専門チームを組成し、実際にどんな業務で活用ができるか、お客様にフィードバックをいただきながらアジャイルな視点で仮説検証と開発を続けています。

 2つ目は、自社の業務効率化のためのAI活用です。たとえば、会議の議事録作成や営業・カスタマーサクセスにおける顧客対応などは、AIによる効率化の余地が数多くあります。営業であれば、顧客訪問前の情報収集や商談記録のデータベース化などは、AIを使えばこれまでよりもスピーディーに行えます。

 生成AIが登場する以前は、手元にある情報から要点を抜き出して情報を整理する「正規化」が必要でしたが、AIは「非正規データ」を集約・整理してくれるので、これまで手間がかかっていたナレッジマネジメントが容易になりました。

栗原:「AIエージェント」という言葉が注目されていますが、どのように定義されていますか。RPA(Robotic Process Automation)や従来の生成AIとは何が違うのでしょうか。

本松:AIエージェントとは、一言で言えば「自律的に、自己判断で動くことができるシステム」です。RPAは事前に決められたルールに従って定型業務を自動化する「ツール」であり、従来の生成AIもやはり人間の指示に基づいてコンテンツを生成する「ツール」です。それに対し、AIエージェントは自ら情報を集め、計画を立て、タスクを完遂する「パートナー」として機能する点が決定的に異なります。

 人間が一つひとつ指示を与える必要があった従来のシステムとは違い、AIエージェントには「経費精算を完了させて」といった曖昧なオーダーを出すだけで、必要な業務を自律的に考えて実行してくれます。まるで優秀なアシスタントのような存在だと捉えると分かりやすいかもしれません。

なぜAIエージェントの活用に「対人マネジメント力」が必要なのか

栗原:AIが自律的に働く「パートナー」へと変わることで、ビジネスにはどのような本質的な変化が起きるとお考えですか。

本松:人間の役割が大きく変わります。AIエージェントは、経理業務のように手順が決まっている一方で、例外や判断が多く自動化が難しかったような業務を代替してくれるようになります。その結果、人間に残されるのは、経営に関わるような本質的な意思決定や、対人コミュニケーションが中心となる業務です。

 そして、AIエージェントを使いこなすうえで重要になるのが、これまで人間に対して行ってきたようなマネジメント能力です。

栗原:AIエージェントの活用に「対人マネジメント力」が求められる。一体、どういうことでしょうか?

本松:AIエージェントも人間と同じで、それぞれに得意・不得意があります。たとえば、「仕事は速いが質はそこそこのAさん」と「仕事は丁寧だが時間がかかるBさん」がいるように、AIエージェントもそれぞれで特性が異なります。そのため、「今回はスピード重視だから『Aさん』にお願いしよう」といったように、状況に応じて最適なAIエージェントを差配する能力、つまりマネジメント力が求められるのです。

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AI時代の競争優位を築く「独自データ」

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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