サンリオとオリエンタルランド、タイミーの事例に学ぶ「ビジネスモデル」の見極め方
栗原:村上さんにお聞きします。急成長を遂げた企業のB/Sには、その「成長戦略」がどのように現れてくるものでしょうか。
村上:さきほどの木村さんの「体組成」のお話は非常に分かりやすいですね。具体的な事例として、スキマバイトアプリのタイミー(Timee)が挙げられます。タイミーはアルバイトをしたい人と人手が欲しい店舗をマッチングするサービスですが、B/Sを見ると、資産の半分近くが「立替金」で、売掛金も非常に大きくなっています。
これは、タイミーがアルバイトへの給与を即日、立て替え払いをし、後から手数料を上乗せして企業(店舗)に請求するというビジネスモデルだからです。この「即日払い」という仕組みが、働き手にとっての大きな魅力、つまり競争優位性になっています。しかし、マッチングが増えれば増えるほど立替金も膨らむため、資金繰りが苦しくなる構造でもあります。
彼らはその資金を「デットファイナンス(金融機関からの融資)」で賄っています。なぜそれが可能かというと、請求先である飲食店や物流会社に大手企業が多く、信用力が高いため、金融機関も安心して融資できるのです。このように、Timeeの「即日払い」という競争優位性は、B/Sの特異な構造を読み解かなければ決して理解できません。P/Lだけを見ていては、彼らの強さの本質を見誤ってしまうでしょう。
栗原:村上さんの著書の中では、サンリオとオリエンタルランドの比較も秀逸でした。一見似ている業態でも、B/Sを見ればビジネスモデルの違いが分かると。
村上:はい。両社ともキャラクタービジネスという点では共通していますが、オリエンタルランドは売上の8割がテーマパーク事業からもたらされます。そのため、B/Sには建設中の新エリア「ファンタジースプリングス」のような、巨額の固定資産が計上されています。
一方で、サンリオは売上の多くがライセンス供与や商品販売によるものです。そのため、B/Sには在庫(棚卸資産)といった流動資産が多く計上されます。同じように見えても、P/LとB/Sを見れば、稼ぎ方も資産の構成も全く違う。この違いを理解することが、企業分析の第一歩になります。
出張買取サービスが持つ「良い仮説構造」とは何か
栗原:村上さんは企業分析のプロとして、多くの中期経営計画を見ていらっしゃいます。「良い仮説構造」を持つ計画と、単なる数字の羅列に過ぎない計画は、どこを見れば見抜けるのでしょうか。
村上:ビジネスの具体的なイメージが湧き、現場のアクションに繋がるKPIが設定されているかどうかが、決定的な違いです。
たとえば、出張買取サービスを展開するバイセルテクノロジーズは、KPIとして「出張訪問件数」を明確に掲げています。そして、訪問1件あたりの平均買取額や粗利率といったデータまで細かく開示しているのです。これを見れば、彼らが売上を上げるための具体的なアクションが「とにかく出張訪問の件数を増やすこと」だと、誰にでも明確に理解できます。
このように、事業構造がきちんと分解され、現場の行動に直結する具体的なKPIが設定されていれば、それは良い計画だと言えます。逆に、売上目標だけが掲げられていて、そこに到達するためのプロセスが不明瞭な計画は、単なる「お題目」に過ぎません。
木村:まさにそのとおりです。多くの中期経営計画でKPIとして掲げられがちなROEなどは、あくまで最終的な結果指標であるKGIであって、日々の活動でコントロールできるパフォーマンス指標であるKPIではありません。「訪問件数」のような、実行可能なKPIの裏側には、経営陣のしっかりとした事業構造への理解があることの証左です。
