FP&Aは「事業に近い人」こそ学ぶべき。「真のビジネスパートナー」とは
栗原:ステップ3の「人材育成」に関連して、石橋さんは著書『FP&Aハンドブック』で、FP&Aの役割を「真のビジネスパートナー」になることだと定義されていますね。
石橋善一郎氏(以下、石橋):はい。インテルなどのグローバル企業では、CFO組織のビジョンとして「真のビジネスパートナー」になることを掲げていました。これは、単に「1.意見を求められる」レベルに留まらず、「2.意思決定プロセスに参加する」を経て、最終的に「3.意思決定を委任される」レベルにまで達することを意味します。
HRBP(Human Resources Business Partner)やLC(Legal Counsel)などが「専門家としてプロセスに参加する」ことがゴールであるのに対し、FP&Aは事業戦略を実行するための「意思決定の当事者」としてリーダーシップを発揮することまで求められる。これが「真のビジネスパートナー」と呼ばれる理由です。
一般社団法人日本CFO協会 「FP&Aプログラム運営委員会」 委員長、米国管理会計士協会(IMA)日本支部 President、中央大学経営大学院 客員教授、LEC会計大学院 特任教授。
富士通、インテル、D&M Holdings、日本トイザらスなどで、FP&AプロフェッショナルおよびCFOとして40年以上の実務経験を有する。著書に『最先端の経営管理を実践するFP&Aハンドブック』(中央経済社、2024年)、『CFOとFP&A』(共著、中央経済社、2023年)、『経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門』(中央経済社、2021年)、『CFO最先端を行く経営管理』(共著、中央経済社、2020年)などがある。
栗原:なぜFP&Aだけ、そこまで重い役割を求められるのでしょうか。
石橋:FP&Aが持つもう一つの重要な役割「MCS(Management Control System:マネジメント・コントロール・システム)の設計者・運営者」が関係しています。そもそもMCSとは、組織目的の実現のために、「1.目的の伝達」「2.行動の理解」「3.結果の伝達」「4.動機づけ」という機能を持つ仕組みのことです。FP&Aは、その設計者および運営者になることを求められています。
FP&Aはこの経営の根幹を担うからこそ、単なる支援者ではなく、当事者としてのマインドセットとスキルセットが求められるのです。
栗原:そうした「真のビジネスパートナー」を育成するために、どのような学びが必要でしょうか。
石橋:日本の会計資格は「簿記検定」がスタンダードでしたが、これは財務報告(財務諸表作成)が中心です。FP&Aに必要な「経営意思決定のための管理会計(予測・意思決定)」や「ファイナンス(予測キャッシュフロー、資本コスト、投資評価)」をカバーしていません。
そこで今、池側先生と私が進めているのが、IMA(米国管理会計士協会)の「USCMA(米国公認管理会計士)」やAFP(米国財務プロフェッショナル協会)のFPAC(公認FP&A資格)といったグローバルFP&A資格の日本における啓蒙活動です。
栗原:USCMAは、どのような資格なのでしょうか。
石橋:USCMAは、まさにFP&Aに必要な知識体系を問う資格です。Part1が「管理会計」中心、Part2が「ファイナンス」中心で構成されており、経営管理のプロフェッショナルであることを証明できます。難易度も、日本の公認会計士試験のような超難関ではなく、理論を理解していれば実務家でも十分に合格が狙えるレベルです。2025年からは日本語で東京および大阪での受験も可能になり、門戸が大きく開かれました。
栗原:こうした資格は、どのような方に受けてほしいとお考えですか。
石橋:まずは経理財務部門の方。簿記の知識だけでは、これからの経営管理は担えません。次に、本社経営企画や事業部事業企画の方。会計とファイナンスの知識は、FP&Aプロフェッショナルになるために必須です。
その次に受けてほしいのは、「事業現場に近い人たち」です。営業、マーケティング、生産管理、研究開発といった部門にいる方々です。彼らが会計・ファイナンスの基本を学ぶことで、自身の事業戦略を数字で語れるようになり、FP&A人材へのキャリアチェンジも可能になります。
