キリン流FP&Aの役割「Analysis + Action」とは
池側:そうした高度な経営管理を実行するための組織体制について教えてください。
松尾:キリンホールディングスでは、事業会社のファイナンス組織とコーポレート(HD)が連携する「ファイナンス・ネットワーク」を構築しています。
特徴的なのが「機能軸」という考え方です。各事業会社(キリンビール、キリンビバレッジなど)には、事業FP&Aとしてファイナンス人財を派遣しています。事業FP&Aは事業会社の企画部長にレポートしますが、機能軸としてホールディングスの財務戦略部ともつながっています。この機能軸が、人財の配置や能力評価の一端を担うことで、グループ全体でのファイナンス組織の高度化と人財育成を可能にしています。
池側:FP&Aの役割定義は、どのように定めていらっしゃいますか。
松尾:一般的にFP&Aの「A」はAnalysis(分析)ですが、キリンではこれにAction(行動・実行)の意味も追加して定義しています。
単に数値を分析してレポートするだけでは不十分です。分析結果に基づき、ビジネスパートナーとして意思決定サイクルをアジャイルに回し、具体的な改善提案や戦略実行(Action)までをリードすることこそが、私たちのFP&Aのミッションです。
FP&Aはファイナンスx経営で活躍する「ジェネラリスト」
池側:FP&A人財の育成について伺います。高度なスキルと事業理解が求められますが、どのようなキャリアパスを描いているのでしょうか。
松尾:われわれはファイナンス人財のキャリアモデルとして、大きく「ジェネラリスト」と「スペシャリスト」の2つの方向性を示しています。
「ジェネラリスト」は、将来のCFO候補や経営の推進役となる人財です。ファイナンスを起点にしつつも、海外拠点や企画部門など、機能・事業・地域を横断する経験を積み、経営視座を養います。
一方、「スペシャリスト」には3つの型があります。「制度決算のスペシャリスト」として会計品質を守る人財、「税務・資金管理のスペシャリスト」として高度なリスクマネジメントを担う人財、そしてこれからの時代に重要な「財務×デジタルのスペシャリスト」です。
勝田:グループとしての人財育成でも「機能軸」が存在しています。たとえば、財務(ファイナンス)の専門性を持って入社した方は「財務」機能という背番号を背負い、その機能を軸としてグループ内の事業会社を横断しながら、専門性を磨くと同時に、複数事業を経験することで内的多様性を高めていきます。
一方で、私が所属する経営企画部などの企画部門は「越境枠」として、営業やマーケティングなど多様なバックグラウンドを持つ人財を受け入れるポジションです。そこでは、それぞれのメンバーが混じり合い、自身の専門性とチームとしての多様性を活かして、グループの幅広い経営課題に対応しています。
次世代のCFOを育てるキャリアモデルと「筋トレ」
池側:FP&A人財には、ファイナンス知識以外にどのようなスキルが求められると定義されているのでしょうか。
松尾:スキルマップを定義していますが、ファイナンスの専門性に加え、自社・業界理解、データ分析、そして何より「リーダーシップ」と「コミュニケーションスキル」が不可欠です。
FP&Aに期待されるのは、単に専門家としての正論を述べることではありません。現場からの「信頼」を獲得し、コンフリクト(対立)を恐れずにマネジメントし、組織を動かす力です。
池側:期待値がわかりやすくセットされているのですね。最後に、これからのキャリアを考える若手人財に向けて、メッセージをお願いします。
勝田:戦略と数字は表裏一体です。キリンホールディングスでは、経営企画と財務が一体となってグループの「未来」を描き、実現に向けたストーリーを紡ぎ出すプロセスに取り組んでいます。変化の激しい時代だからこそ、このダイナミックな経営管理の仕組みにおいて、ともに成長できる仲間が増えることを期待しています。
松尾:FP&Aは、ビジネスを体感するための「筋トレ」のようなものだと思っています。ファイナンスの視点を持って戦略に関わり、数字を通じてビジネスを動かす経験を早く積むことで、経営人財としての基礎体力がつきます。
私は「自分の軸を最低3つ作りましょう」と言っていますが、その1つにFP&Aが入っていると非常に強い。何年かかるかは人それぞれですが、経営に興味がある人にとって、FP&Aは非常に有効なキャリアの入り口になるはずです。
池側:もともとはビール会社だったキリンが、「不確実性に備えた盤石な事業ポートフォリオ」を持ち、それをもとに企業価値最大化を目指していらっしゃる。その核となるのが、ファイナンス・ネットワークの一機能であるFP&Aです。FP&Aと経営企画・事業企画が連携し、コーポレートと事業をつないでいます。本日お伺いした取り組みは、多くの日本企業にとって、グループ経営と「FP&A」のあり方を示す重要なモデルケースだと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

