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AI時代の両利きの経営

日立が挑む「フィジカルAI」の実装──熟練工の暗黙知を移植する、日本ものづくり再興の処方箋

ゲスト:株式会社日立製作所 田中航氏、滝川絵里氏

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 少子高齢化に伴う労働力不足や、熟練技術者の退職による技能継承の断絶。日本の社会インフラや製造現場は今、かつてない危機に直面している。この「現場」の課題を、デジタルと物理(フィジカル)の融合によって解決しようとしているのが日立製作所だ。同社は2025年4月に発表した新経営計画「Inspire 2027」において、データから価値を創出する「Lumada(ルマーダ)」をさらに進化させた「Lumada 3.0」を掲げた。その中核を担うのが、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」(以下、HMAX(エイチマックス)、そして「フィジカルAI」という概念だ。単なる効率化に留まらず、現場の「暗黙知」をAIに組み込み、自律的に動くシステムはいかにして構築されるのか。R&Dの最前線に立つ田中航氏と、ビジネス展開を牽引する滝川絵里氏に、インタビューアーの小宮昌人氏が切り込んだ。

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「データ収集」から「現場のアクション」への進化

小宮昌人氏(以下、小宮):日立の成長を支える「Lumada」が3.0へと進化しました。この新しいステージにおいて、新ソリューション群「HMAX」はどのような役割を果たすのでしょうか。

滝川絵里氏(以下、滝川):Lumadaは「Illuminate (照らす・解明する・輝かせる)と「Data(データ)」を語源とする、データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための、日立のソリューション・サービス・テクノロジーの総称です。これまでの1.0が「IoTによるデータ収集」、2.0が「ユースケースの蓄積」だとすれば、3.0は「AIとドメインナレッジ(現場知見)の融合による新たな価値創出」のフェーズです。

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株式会社日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット AI CoE HMAX&AI推進センター 部長 滝川絵里(たきがわ・えり)氏
官公庁向けシステムやクラウド基盤の経験を経て、AIソリューション開発に従事。現在は日立グループ全社への共通基盤展開と外販ソリューションの拡販を担当。日立のAIアンバサダーとしても活動。

 HMAXは、このLumada 3.0を具体的に体現するソリューション群を指します。最大の特徴は、ITレイヤーのデジタルデータだけでなく、現場の設備やロボットといった「フィジカル(物理)」の領域にAIを実装し、分析結果を現場の「アクション(実行)」へとフィードバックしながら最適化のサイクルを回していく点にあります。

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小宮:ITの最適化だけでなく、いよいよ「現場を動かす」段階に入ったということですね。そこで鍵となる「フィジカルAI」とは何を指すのでしょうか。

田中航氏(以下、田中):フィジカルAIの定義は日立内部でも議論を重ねていますが、一言で言えば「現場のフィジカルなデータをAIが取得(Sense)、思考(Think)し、それを現場への具体的な指示や動作(Act)として返す仕組み」のことです。

 今までのAIは、画面の中で言語でのやり取りやグラフを出したりするまでが一般的でした。フィジカルAIは、その指示をロボットや装置の「動き」として体現させます。これにより、これまで難しかった「デジタル空間の判断」と「物理空間の実行」の間の断絶を解消し、現場と経営をダイレクトにつなぐことが可能になります。

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株式会社日立製作所 研究開発グループ Next Research ロボティクスプロジェクト プロジェクトリーダ 田中航(たなか・わたる)氏
ロボティクス・メカトロニクスの研究開発に従事し、現在はフィジカルAIを用いた新たな価値創出を牽引している。

日立の強みを発揮する組織体制で社会課題を解決

小宮:2026年1月に発表した体制強化を含め、組織のあり方も大きく変わっていますね。なぜ今、この体制が必要だったのでしょうか。

滝川:日立の強みは、IT(情報技術)だけでなく、長年培ってきたOT(制御・運用技術)とプロダクト(製品)を自前で持っていることです。これらをバラバラに提供するのではなく、AIという横串で統合するために、現在の組織は「逆T字型」の構成をとっています。

 エネルギー、モビリティ、インダストリーといった各事業領域(ドメイン)に特化した部隊と、AIやフィジカルAIの共通基盤を作る部隊が密接に連携します。現場の深い知識がなければ、AIは「正しく動く」ことはできても「価値を生む」ことはできません。この両輪を回すことが、お客さまのデジタル変革(DX)を加速させる最短ルートだと考えています。

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小宮:買収した米グローバルロジック(GlobalLogic)やJRオートメーション(JR Automation)とのシナジーについても教えてください。

田中:グローバルロジックは、収集したデータをいかに使いやすいアプリケーションやAIエージェントに落とし込むかという、ソフトウェア設計において世界屈指のスキルを持っています。一方でJRオートメーションは、物理的な生産ラインを構築するロボットSIerとしての高い技術を持っています。

 彼らのケイパビリティ(能力)を組み合わせることで、ソフトウェアによる高度な判断を、物理的なオートメーションの現場へ即座に反映させる「垂直統合型」のソリューションを提供できるようになったのです。

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熟練工の「両手の動き」を1秒単位で見抜く動画解析AI

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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