「データ収集」から「現場のアクション」への進化
小宮昌人氏(以下、小宮):日立の成長を支える「Lumada」が3.0へと進化しました。この新しいステージにおいて、新ソリューション群「HMAX」はどのような役割を果たすのでしょうか。
滝川絵里氏(以下、滝川):Lumadaは「Illuminate (照らす・解明する・輝かせる)と「Data(データ)」を語源とする、データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための、日立のソリューション・サービス・テクノロジーの総称です。これまでの1.0が「IoTによるデータ収集」、2.0が「ユースケースの蓄積」だとすれば、3.0は「AIとドメインナレッジ(現場知見)の融合による新たな価値創出」のフェーズです。
官公庁向けシステムやクラウド基盤の経験を経て、AIソリューション開発に従事。現在は日立グループ全社への共通基盤展開と外販ソリューションの拡販を担当。日立のAIアンバサダーとしても活動。
HMAXは、このLumada 3.0を具体的に体現するソリューション群を指します。最大の特徴は、ITレイヤーのデジタルデータだけでなく、現場の設備やロボットといった「フィジカル(物理)」の領域にAIを実装し、分析結果を現場の「アクション(実行)」へとフィードバックしながら最適化のサイクルを回していく点にあります。
小宮:ITの最適化だけでなく、いよいよ「現場を動かす」段階に入ったということですね。そこで鍵となる「フィジカルAI」とは何を指すのでしょうか。
田中航氏(以下、田中):フィジカルAIの定義は日立内部でも議論を重ねていますが、一言で言えば「現場のフィジカルなデータをAIが取得(Sense)、思考(Think)し、それを現場への具体的な指示や動作(Act)として返す仕組み」のことです。
今までのAIは、画面の中で言語でのやり取りやグラフを出したりするまでが一般的でした。フィジカルAIは、その指示をロボットや装置の「動き」として体現させます。これにより、これまで難しかった「デジタル空間の判断」と「物理空間の実行」の間の断絶を解消し、現場と経営をダイレクトにつなぐことが可能になります。
ロボティクス・メカトロニクスの研究開発に従事し、現在はフィジカルAIを用いた新たな価値創出を牽引している。
日立の強みを発揮する組織体制で社会課題を解決
小宮:2026年1月に発表した体制強化を含め、組織のあり方も大きく変わっていますね。なぜ今、この体制が必要だったのでしょうか。
滝川:日立の強みは、IT(情報技術)だけでなく、長年培ってきたOT(制御・運用技術)とプロダクト(製品)を自前で持っていることです。これらをバラバラに提供するのではなく、AIという横串で統合するために、現在の組織は「逆T字型」の構成をとっています。
エネルギー、モビリティ、インダストリーといった各事業領域(ドメイン)に特化した部隊と、AIやフィジカルAIの共通基盤を作る部隊が密接に連携します。現場の深い知識がなければ、AIは「正しく動く」ことはできても「価値を生む」ことはできません。この両輪を回すことが、お客さまのデジタル変革(DX)を加速させる最短ルートだと考えています。
小宮:買収した米グローバルロジック(GlobalLogic)やJRオートメーション(JR Automation)とのシナジーについても教えてください。
田中:グローバルロジックは、収集したデータをいかに使いやすいアプリケーションやAIエージェントに落とし込むかという、ソフトウェア設計において世界屈指のスキルを持っています。一方でJRオートメーションは、物理的な生産ラインを構築するロボットSIerとしての高い技術を持っています。
彼らのケイパビリティ(能力)を組み合わせることで、ソフトウェアによる高度な判断を、物理的なオートメーションの現場へ即座に反映させる「垂直統合型」のソリューションを提供できるようになったのです。
