「big-evidence」を羅針盤に、「small-evidence」で舵を切る
では、どうすればよいのか。本論文が提唱するEBMgtの考え方は、実践的なヒントを与えてくれます。鍵となるのが、big-evidenceとsmall-evidenceの使い分けです。たとえば、「心理的安全性が高いチームほど業績が高い」というのは、Googleの研究をはじめ、世界中の多くの研究で繰り返し確認されてきたbig-evidenceです。メタ分析によって裏づけられた、いわば経営学のセオリーといえます。
一方、「わが社の営業チームでは、週次の振り返りミーティングを導入したら受注率が上がった」というのはsmall-evidenceです。自社の文脈に根ざしたリアルな知見ですが、他社に当てはまるかどうかはわかりません。
EBMgtが推奨するのは、このbig-evidenceとsmall-evidenceを組み合わせることです。big-evidenceを方向性を定めるための「羅針盤」として使い、small-evidenceで自社の状況に合わせて微調整する、つまり、理論を「思考の補助線」として使うイメージです。
具体的には、新しい人事制度を導入しようとする場面を考えてみましょう。「目標管理制度(MBO)は、自律性の高い職種では効果が出やすい」というbig-evidenceがあるとします。しかし自社の営業部門は、上司の指示に従う文化が根強い。このsmall-evidenceを踏まえれば、「いきなり全社導入するのではなく、まず自律性の高いエンジニア部門で試験導入する」という判断が導き出されます。理論を盲目的に適用するのでも、経験則だけに頼るのでもなく、両者を組み合わせて意思決定の質を高める——これがEBMgtの真髄です。
エビデンスは意思決定の「免罪符」や「答え」ではなく、自社の文脈で考え抜くための「思考の補助線」です。「他社もやっているから」という証言ゲームを抜け出し、学術知見を自社にどう応用できるか語れること——それこそが、前例のない意思決定を迫られるリーダーの強力な武器になります。
