AI時代に求められる、暗黙知を形式化する新規事業
北島幹雄氏(以下、北島):本日のテーマは「会社を変える事業は、何が違うのか」です。大きく「成長する事業の要件」「人材の要件」「会社の要件」の3つに分けて、お二人に質問をぶつけていきたいと思います。まず田所さん、新規事業を取り巻く現状をどのように捉えていらっしゃいますか。
田所雅之氏(以下、田所):私自身は9年前に『起業の科学』を書きましたが、読者の6割ほどが事業会社の新規事業担当者でした。基本的に新規事業というのは専門性が非常に高い領域です。ところが、多くの方々が昨日まで経営企画や営業にいて、突然任されて「武器のないまま戦っている」という状況に困っていらっしゃいます。
我々の生活の基幹となっているものは、すべて「0から1」から始まっています。既存事業である100のものを110にするような「探索型」のアプローチは、これからの時代においては、AIが得意とする領域になっていくでしょう。だからこそ、人間が行うべき「0から1」の新規事業とは、現場にある「暗黙知を形式化すること」だと私は考えています。
北島:なるほど。武器を持たないまま暗黙知の形式化に挑まなければならないのが、今の新規事業担当者のリアルなのですね。では、最初のテーマです。会社を変えるほど大きく成長する事業とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。
合田ジョージ氏(以下、合田):大型化している事業の例を見ると、どうしてもトップダウンの投資の意思決定が必要になってきます。そのため、会社の中核的な位置付けを穴埋めする形で、会社のリソースを一気に使い、方向性に合致している事業が1,000億円クラスに育ちやすいですね。それが自社開発であれ、M&Aであれ、会社の大きな軸として機能するものが大型化の条件だと感じています。
タニタとRIZAPに学ぶ「点」から「価値連鎖」へ
北島:田所さんは、事業を大きく成長させるための要件についてどうお考えですか。
田所:社内で新規事業を作ろうとすると、どうしても「自動車会社が新しい車を作る」といった、既存事業の染み出しになりがちです。しかし、本当に大きな事業を作るには、一つひとつのプロダクトをつなげて「価値連鎖(バリュージャーニー)」を構築する構想力が必要です。
たとえばタニタの体重計です。体重計に乗ること自体が好きな人はいませんよね。「少し太ったかな」と気づくために乗るわけです。タニタは「健康をはかる」から「健康をつくる」へとバリューチェーンを広げ、「測る、わかる、気づく、変わる(タニタ食堂など)」という全体の体験を丸ごと抱え込みました。単発の体重計市場では500億円程度でも、全体を抱え込めば市場は一気に拡大します。
北島:点ではなく、体験全体をデザインする構想力が不可欠だということですね。
田所:もう一つの成功例がRIZAPが展開するchocoZAPです。一見すると本業と競合するように見えますが、RIZAPには店舗展開のアセットマネジメントスキル、ロケーショニングのスキル、そしてトレーニング機器を仕入れる力という連続した“強み”がありました。
この連続した強みと、テクノロジーなどの非連続な要素を掛け合わせることが重要なのです。ただし、連続しすぎると単なる既存の探索になってしまうので、マクロの外部環境を見据えながら、トップダウンで推進していく。そしてミクロな現場で検証を繰り返すことが、大事業を創るアプローチになります。



