労働力不足の矛盾を打ち破る「フィジカルAI」のインパクト
德永氏は冒頭、2026年を「フィジカルAI元年」と表現し、極めて大きな産業構造の転換が起きていると語った。従来のAIはサイバー空間にとどまり、膨大な学習データに基づいて助言や知識を提供する存在であった。一方、私たちが暮らす現実世界は、判断を誤れば事故が起きるリスクをともなうため、AIの直接的な関与には慎重な姿勢がとられてきた。しかし、フィジカルAIの進化により、現場の機器が自ら学び、考え、行動する時代が到来した。これは、人が決めた通りに動く従来の「自動化」とは決定的に異なる、状況の変化に応じた「自律化」を意味する。
この変革が急務となっている背景には、社会インフラを支える現場の深刻な危機がある。日本においては2040年に1,100万人の労働力が不足するという推計があり、少子化にともなう構造的な課題となっている。一方で、インフラの運用現場では24時間365日の監視が依然として必要であり、耐用年数を迎える設備も急速に増加している。こうした限界を前に、これまでのフロントラインワーカーの知恵と判断力だけに頼る運用は岐路に立たされている。
「守るべきものは増える。しかし、現場を支える人は増えない。この矛盾に向き合う鍵がフィジカルAIです。そのインパクトは特定の業界にとどまりません。建設現場での作業や公共交通の運行など、あらゆる現場を革新できる可能性を持っています」
特定の業界にとどまらず、あらゆる現場を革新する。AIが熟練したワーカーと同等に判断・行動することで、人はあるべき社会構想など、人にしかできない高度な仕事に集中できるようになるという。
AI実装の4ステージ。現場でITとOTを統合し価値へ変換
フィジカルAIが現実世界を動かすためには、クリアすべき4つのステージがあるという。第1ステージは、サイバー空間のAIが現実の重力や熱などの物理現象を学習する段階。第2ステージは、現実世界を再現したデジタルツインで試行錯誤を繰り返し、適切な判断を学ぶ段階である。第3ステージは、特定の業界や業務における安全基準や運用手順といった特有のルールを理解する段階。そして第4ステージが、現場での実践となる。
現在、世界のトップAI企業は主に第1・第2ステージのプラットフォーム構築に注力している。そうした中、日立が真価を発揮する領域は第3・第4ステージであると德永氏は強調する。
「AIを現場に実装し、安全に稼働させるためには、現場固有のルールを学び、実践することが必要不可欠です。IT、OT、プロダクトを通じてお客様の現場を支えてきた日立だからこそ、第3、第4のステージで価値を発揮することができると考えています」
日立にはITシステム開発における80年の歴史と、エネルギー、鉄道、金融など止まることが許されない社会インフラを支えてきたプロダクトおよびOT(制御技術)における116年の蓄積がある。AIが社会インフラを進化させる時代に求められるのは、個別の技術だけではなく、それらを現場で統合し安全かつ持続的に価値へと変換する力である。多様なインフラ事業領域を持つ同社は、AIの力を掛け合わせ、複数の領域を横断して運用全体を最適化する挑戦に取り組んでいる。




