イベントの後半では、藤岡氏と宇田川氏のほかに、個人としてすでに柔軟な働き方を実現している正能茉優氏と黒田悠介氏を交えてパネルディスカッションが行われた。
正能氏は自身が学生時代に立ち上げた会社、(株)ハピキラFACTORY代表取締役とソニー(株)の新商品企画担当を兼任。黒田氏は文系フリーランスやフリーランス研究家として活躍している。
「経産省若手ペーパー」と、イベント前半の藤岡氏と宇田川氏の講演を受け、現在日本の人事制度が抱える問題と、今後向かうべき方向性について議論が行われた。その様子を下記にレポートする。パネルディスカッションは、会場から寄せられた質問に登壇者が答えるというかたちで進行した。
“一番イケていない”日本企業の慣習として挙がった「3つのこと」
──まずひとつめの質問は「一番イケていない日本の人事慣習は?」というものです。さまざまな企業と仕事をされているという黒田さん、いかがでしょう。
黒田「これまで30社くらいの企業と関わらせてもらったのですが、そのとき感じたのは自前主義にこだわりすぎているということ。会社にとって重要なのはとにかくプロジェクトをまわすことのはずなので、フリーランスやクラウドソーシングといった第二のリソースをうまく活用すればいいんじゃないかと思います。たとえばフリーランスのチームで新規プロジェクトを立ち上げて、ある程度まわせるようになったら社内で引き継ぐとか。そういうリテラシーを高めていくこともHRが取り組むべきことかもしれませんね」
──宇田川さんはどうでしょう?
宇田川「人事制度とは違うのかもしれませんが、会社をやめていく人を『裏切り者』呼ばわりするような文化はイケてないと思いますね。世界的にも大企業がイノベーションを起こすのは難しいと言われているなかで、外に出てなにか新しいことをしようとしている人を支援するというのがひとつの大きな役割なんです。欧米は勿論、アジア諸国でも、大企業が、スピンアウトした人たちが外側でイノベーションを起こすのを支援するというかたちが一般的になってきています。日本のようにやめる人を叩いてばかりいては無理ですよね」
──黒田さんの言う自前主義とも合わせて、日本企業の体質がイノベーションを阻害しているのかもしれませんね。正能さんは、ご自身の会社を経営しながら、大企業の社員としても働かれていますよね。
正能「はい。大学卒業後、2年半は広告代理店のプラナーとして、昨年の秋からはソニーで働いています。代理店をやめることにしたのは、企業のビジネス特性上、「副業」という働き方をするのは難しいなと思ったからです。代理店のビジネスは、「マルチクライアント制」という、どんな業界のどんな企業もクライアントになり得るビジネス。だから、私が経営している自分の会社のクライアントさんと、勤めている会社のクライアントさんが被ってしまう可能性があるんです。だから代理店にいる限り、予期せぬ形で「競業」が起こってしまう。そこで、ソニーという事業会社に転職しました。
これらの経験をして思ったのは、企業の度量うんぬんではなく、そもそも「マルチクライアント制」のビジネスをしている会社で、私のような働き方をするのは無理があったんじゃないかなということ。今、国が主体となって働き方改革が進められていますが、実際にそれを実現できるかどうかは、各企業が各々のビジネスモデルと照らし合わせて、どこまで実現できるかを判断したうえで、制度を作るべきだと思います」