定性的、定量的を統合した評価ができるフレームワークを開発したAmazon Prime Video
組織においてUXデザイナーとデータサイエンティストが分断されているために、協業して調査を行う機会は多くないのが現状です。協業した場合にも、互いの知見の共有や価値の理解がなされていないため、共通の判断軸を持てず、意思決定に弊害をもたらすことがあります。
2つ目の事例は定性・定量両面から評価ができるフレームワークを開発し、組織の意思決定を推進したAmazonの事例です。
■事例2:Amazon Prime Video
Amazon Prime Videoでは、定性調査チームと定量調査チームが分断されていたため、同じ事象の調査でも全く異なる示唆を出していることがあり、明確な決断が困難となっていました。
例えば、ユーザーがサイト上の特定要素をクリックした頻度を調べた際に、定量調査チームは「頻繁に利用されており、非常な有効な要素である」という調査結果を導き出し、定性調査チームでは「困難なUXであるが故にユーザーが混乱している」と導き出しました。
このような事態から、分断されたチームを統一し、「Amazon Prime VideoのCX(顧客体験)向上」という目的達成のためにサービスを統合的に評価できるよう協業体制を構築しました。
本事例のポイントは、サービスのCXを定性・定量両面から統合的に判断できるフレームワークを開発し、CXの低い項目を改善するための意思決定を推進したことです。
まず、彼らは既存データやインタビューなどによる定性調査を行い、ユーザーがオンラインビデオサービスに求めている潜在的なニーズを明らかにしました。
このうち、発見した複数のニーズを、
- サービスがユーザーの潜在的なニーズのために提供しなければならない価値
- 潜在的なニーズに応えているのかをユーザーが判断する指標
の2つに捉え直し、彼らがCXO(顧客体験成果)と呼ぶ指標へと変換しました。
CXOの構造(Amazon Prime Videoの講演より筆者にて作成)
明らかになった複数のCXOをユーザージャーニーごとにプロットし、CXOフレームワークを作成。そして、アンケートによる定量調査から各CXOの達成基準の数値化を行いました。
CXOの評価例(Amazon Prime Videoの講演より筆者にて作成)
それぞれのCXOが提供できているのか否かを判断するために、Amazon Prime Videoの利用データとアンケートによる定量データを統合し、スコアリングを可能にしました。各スコアから対応すべきCXOの優先順位を判断し、優先順位の高いCXOを改善するプロトタイプを用いた定性調査を実施するフローを構築。その結果、達成されていないCXO、重点的に取り組むべきCXについて、定性・定量両面での意思決定が実現しました。
サービス向上だけでなくプロトタイプによるPoC(概念実証)設計の際にも参考となりうる事例です。利用データと統合して検証することで、ユーザーインタビューだけでは引き上げられない課題の発見やインタビューの質問項目設計にも役立てられる、定性と定量を横断したPoC設計が可能になります。
【このページのサマリー】
- 定性調査と定量調査を分断していてはデータのミスリードが起こりうる
- 定性・定量を統合した評価軸によって共通の認識が可能となる
- 求められている潜在的なニーズを明らかにし、利用データ定量調査によるスコアリングから意思決定を推進し、定性調査からサービス改善へつなげる