企業のあらゆる部門、立場のメンバーが、ユーザーへのプロダクト体験向上を目指して行動する、「プロダクト主導型」のモデルがソフトウェア業界を中心に一般的になりつつある。無料でトライアルを提供し、そこから購入へと誘導するアプリケーションやサービスに、皆さんも日頃から触れているのではないだろうか。 しかし、それはただ「無料で体験版をリリースすればよい」という話ではない。そこに至るまでにも様々な課題が存在し、それを迅速に解決・実現するための組織開発や、プロダクトの改善・定着を行っていくための思考、施策が無数に存在するのである。今回紹介する『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』(トッド・オルソン 著/横道 稔 訳/日本能率協会マネジメントセンター)では、新時代のプロダクトマネジメントに関する知見が豊富に詰まっていた。
フリーミアム戦略の肝とはなにか
企業の様々な部門がプロダクトにフォーカスして行動し、顧客は提供側のアプローチよりも先にプロダクトを体験して価値を見極める「プロダクト主導型」のビジネスモデルが浸透しつつあることは、以前『プロダクト・レッド・グロース』を紹介した記事でも触れてきた。本書では、プロダクト主導型のビジネスを進めていく上で直面する「無料における課題」について述べられている箇所があり、興味深かったため紹介する。
現在、ユーザーにとってはトライアル版など、購入前に無料でプロダクトを体験することが半ば当たり前になっている。そこで、近年は購入前のプロダクト体験の提供メソッドとして「フリーミアム戦略」がひとつの主流となっているのだ。プロダクトの一部の機能やコンテンツを無料で提供し、一定期間ユーザーにトライアル版を利用してもらうこの手法は、ソフトウェアなどに限らず、皆さんが日頃目にする商品でも採用されているのではないだろうか。
フリーミアム戦略を展開する上で最初に重要なことは、「小口顧客を喜ばせる」ことだと本書は述べている。そもそも、多くの企業にとっての目標は、できるだけたくさんのユーザーにプロダクトを使ってもらい、基準となるユーザー群を構築することにある。そうすることで、プロダクトが選定されるようになるまでの勢いを加速できるからだ。ユーザーが増えるほどフィードバックのサイクルも速くなり、より強力なプロダクトを作れるようになることは、容易に想像できるだろう。
やがて、多くのことを要求する小口顧客を喜ばせることができれば、自然と大口顧客のニーズも満たせるようになるという。そして、多くの小口顧客を軌道に乗せるための戦略的な方法のひとつが、「小口顧客が少ないコストでプロダクトを試せるようにする」ことなのである。
このフリーミアム戦略、強力なポテンシャルを秘めてはいるが、「フリーミアム版でプロダクトのどこまでを提供するか」という点のバランス調整が難しいという。提供しすぎることは当然避けるべきだが、十分に提供できていないと逆効果にもなるからだ。このバランス調整が上手な例として、本書はThe New York Times(ニューヨークタイムズ)のオンライン版を挙げている。同メディアでは毎月10本の記事が無料で読めるのだが、これが20本になるとトライアルユーザーは有料購読を申し込む必要がなくなってしまうかもしれない。
こうした絶妙な提供のラインを見極めるためには、プロダクトの利用状況などのデータを分析することが必要だという。データ分析・活用がプロダクト主導型ビジネスを進める上で非常に重要というわけだ。
そして、ユーザーが早い段階でできる限り多くの価値を実感できるようにすることが、オンボーディングやマーケティングの役割だという。他社のプロダクトにはない利点を備え、それを簡単に体験できるように工夫することは、ユーザーの“失う恐怖”を強調することができるからだ。
会員登録無料すると、続きをお読みいただけます
-
- Page 1
-
- Page 2
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-




