暗黙知だった「新規事業のノウハウ」を顕在化させる

畠山和也氏（以下、敬称略）：上梓された『社内起業家 ―サラリーマンでも起業家でもない生き方―』は、商船三井、NTT、キリンなどの大企業で新しい事業を創った8名へのインタビューを中心に、社内起業家の実像に迫っていらして興味深く拝読しました。まずは、岩田さんの経歴を教えていただけますか？

岩田徹氏（以下、敬称略）：学生時代は精密機械工学を専攻、「ロボカップ」という自律移動型ロボットによるサッカー大会に出場しました。卒業後は、ビジネスの世界に関わりたいと考え、A.T.カーニー株式会社、株式会社ローランド・ベルガーでコンサルタントとしてキャリアをスタート。その後は、SAP Japan株式会社にてマーケティング担当、人材開発コンサルティングのセルムグループ内の多角経営の第1号としてファーストキャリアの設立に参画しました。そこでの経験も踏まえ、グループ内で、「企業とヒトと創造性開発」をテーマに2012年、アイディアポイントを設立、独立しました。以来、企業で新しいことを始める方を支援する事業を行っています。

畠山：キャリアにおいて、新規事業をめぐる各社の失敗や、現場の方がぶつかる課題についての知見も豊富かと思います。みんな同じようなところでつまずくな、とか。そういうリアルな話があまり世の中に出てこないと感じているので、ぜひお聞かせいただきたいです。

岩田：おっしゃる通りで、アイディアポイントを設立した10年前、新規事業は当たるか当たらないかわからない“ギャンブル”のように扱われていると感じていました。書籍も「自分はこうやって成功した」というような属人的なエピソードが羅列してあるものばかりだと感じました。

　そのような状況に違和感を覚えて立ち上げたのがこの会社です。新規事業において、きちんと手順も踏みながら、ある程度確立された方法論が必要なのではないかと考えたのです。

畠山：コンサルテーションとなると当然NDAを交わすため、各社の経験を具体的に共有できないのが難しいところですよね。私も、各社の新規事業が失敗していくのをただ眺めているのは、すごく嫌だと感じています。そのため、暗黙知になりがちな新規事業のノウハウを顕在化するために、「だれでも新規事業つくれるカレッジ」というセルフラーニングプログラムの開発も進めているほどです。ちなみに、今回の書籍はどういった経緯で書かれたのでしょうか？

岩田：新規事業の失敗の話もそうですが、「新規事業」という仕事に取り組む人の話も世の中にあまり出てこないと思っていました。実際に活躍している社内起業家たちはどんな人たちなのかということを、より多くの人に知ってもらいたかったのです。特に伝えたかったのは、「（この人たちは、この仕事は）楽しそうだぞ」ということです。

　ビジネスパーソンになって20年以上になりますが、働くのが辛そうな方が多い印象があります。本来、仕事は楽しいはずで、さらに新しいことをやるって、本来的には楽しいことのはずです。私が学生時代に取り組んだロボットサッカーもそうですが、全体としてのルールがある中で、それぞれの現場個人の判断でプレーしながら、最終的にはみんなでゴールを目指すあり方は、社内起業ならではの楽しさです。

　ですからこの書籍は、楽しく幸せな働き方の選択肢の一つとして、新規事業、そして社内起業も視野に入れてみてはどうかという提案のつもりで執筆しました。