事業開発に必要なプロセスをおさらい
前回説明した通り、事業開発は複雑性をはらむため、検討を進めていく中で、向き合っているビジネスアイデアの全体像への認識がチーム内でずれてしまったり、次に何をしていくべきなのか、今どのような問いと向き合っているのか分からなくなってしまったりする“事業開発迷子”に陥るケースが多く見られます。
そうした状況に陥らないためには、事業開発プロセスの中に、ビジネスアイデアの全体像を捉え、次に向き合うべき問いを導き直す「CHECK」の機能が必須となります。CHECKを起点にし、仮説検証を繰り返すプロセスこそがあるべきプロセスです。
また、事業開発とは不確実性の塊であり、誤解を恐れずお伝えすれば「やってみなければ分からない」領域です。そのような特性を持つ中で、ロジックを通じた定量化を行う過程で生まれてくる、「このアイデアは魅力的なビジネスになる」という“確証”だけで推進することは難しく、ある種直感的で感覚的ではあるものの、「絶対にいける、いけそうだ」という“確信”が必ず必要となります。そのため、ビジネスアイデアの幹となる、「誰の」「どのような課題」に対して、「どのような価値」を「どのような手法(体験)」を通じて提供するのか、というコンセプトに対しては、ミクロとマクロ双方の視点から捉えることで確証と確信を併せ持つことが大切であり、前回は確証と確信を併せ持つコンセプトを描くアプローチについて解説しました。
戦略検討の第一歩。「競合」を規定する
コンセプトをマクロとミクロから捉え規定した上で、次に向き合うべきは戦略(優位性)の領域です。なぜ、競合がひしめく環境下でも顧客に選ばれるか、どこに優位性を持たせていくのか。競合と優位性(戦略)の問いに向き合っていきましょう。
「自身のアイデアに競合はいません」と話されるケースがありますが、顧客の時間と消費が有限である以上、必ず競合は存在します。ただし、競合にも階層が存在し、アイデアや事業ステージによって、どの競合と向き合うべきかは変わってきます。「誰の」「どの課題」に対して「どのような価値を」「どのような手法で」という、コンセプトを構成する4つの要素の重なり具合から、少なくとも4種の競合が存在します。
4つの要素すべてが重なるプレイヤーが「完全競合」です。たとえば「Uber」の場合、他事業者が提供するタクシー配車アプリが完全競合に該当するでしょう。すでに先行プレイヤーが存在するビジネスアイデアにおいては、「この完全競合になぜ勝てるのか?」が大きな問いになります。
一方、先行プレイヤーが存在しないビジネスにおいては、捉えている顧客や課題、実現しようとしている価値は同じだが、その手法が異なるプレイヤー「代替競合」が存在します。同じようにUberを例にとってみると、タクシー待ち時間を最小化するための手段としては、タクシー会社に電話し配車依頼を頼む方法もありますし、タクシー以外にも、シェアサイクルやシェアバイクなどを用いる方法もあります。これらが代替競合と成り得るでしょう。完全競合が存在しないアイデアの場合は、代替競合に対して「なぜ自社サービスが選ばれるようになるのか」を問うことが重要です。
次に、共通の課題に対して自社とは異なる価値提供を目指すプレイヤーが、「課題競合」です。Uberは事前決済や配車手配アルゴリズムの実現などを通じ、タクシーの待ち時間という無駄な時間を最小化することで価値提供を行っています。一方、待ち時間を減らすのではなく、意味のある時間に変えることで価値提供を行っているプレイヤーも存在します。スマホゲームやスキマ学習アプリなどがこれに当てはまるでしょう。こうしたサービスはUberにとって直接的な競合関係にはないですが、Uberが必要とされるシーン、待ち時間にストレスを感じるシーン自体をなくす(減らす)という観点においては、競合として捉えることもできます。
より広く生活者に受け入れられるマスプロダクト化を見据えている、あるいは見据えるステージにあるのであれば、同じ課題を捉えている競合に対して、なぜ自社が提供する価値はより強いのか、選ばれるのかという観点と向き合うことが必要です。
最後に紹介する競合は、同じ顧客像/シーンを捉えているが、自社サービスと異なる課題を捉えようとしている「顧客競合」です。Uberは「短距離の移動をしたいシーン/生活者が抱える待ち時間のストレスと向き合っていますが、同じ顧客の抱える「運動不足・健康不安」などといった別の課題と向き合っているプレイヤーがこれに該当します。移動を楽しい時間に変える位置情報ゲームや、運動に変える健康アプリなどは、Uberから見て同じ顧客と向き合っているプレイヤーといえるでしょう。課題競合と同様に、こちらも直接的な競合ではないですが、短距離移動というシーンでより多くの生活者に浸透する状態を見据える上では、見逃せないプレイヤーとなります。
このように、競合には複数の階層があり、自社サービスの特性やフェーズによって向き合うべき競合が異なります。自社にとってどこを競合に据えるのか、言い換えれば「どこからユーザーを振り向かせるのか」という問いと向き合い、規定することが、戦略領域の検討における第一歩です。