「日本人と違う」マネジメント
宮森:タイではコーチングの技術が通用しづらいとのことですが、実際にはどのようなマネジメントをされたのでしょうか。
髙林:東レの場合、駐在期間が3~4年しかないことがほとんどで、“違い”がわかってきた頃には日本に帰る時期になってしまいます。しかし、タイで成功している他社の方に聞くと、10年は現地にいて、タイの人たちの言い分をよく聞いて寄り添うことが大事だとおっしゃるんです。時間が限られているので、私は「日本人と違う」と感じることがあるたびに、細かくメモを取ってきました。
宮森:そうやって周りの方々に聞いたり、違いに目を向けてメモを取ったりする姿勢が素晴らしいですね。経営では、どのようなことに注力されたのでしょうか。
髙林:コンプライアンスですね。これはタイに限らず東南アジア全般の問題ですが、集団主義の国ではコネが強く効き、不正が起きやすい。会計を手でやらせる限り、完全に防ぐことはできません。そこで、人の手を介さないようにシステム化しました。
宮森:「権力格差」が大きくて「不確実性の回避」が高い文化では、ボスが命令しても聞きません。おっしゃる通りシステムを作らないと回らないですよね。これはCQの講座でお話していることですが、髙林さんは当時からそれを見通していたのですか?
髙林:いえ、私ではなく元から現地にいた部下たちがわかっていました。私が行って大きく変えたということではなく、私以外の日本人が問題意識から取り組んできたことに乗っかった形です。
宮森:日本でマーケティングの統括をされていたときは、コーチングも大いに役に立ったことでしょう。タイではまったく違うマネジメントスタイルを求められて、大変だったのではないでしょうか。
髙林:私は必要なことならなんでも演じられるので、割と平気でした。
宮森:そのように相手によってやり方を変えるスキルを、次世代の経営幹部にも身につけてほしいと思われているのでしょうか。
髙林:「いろんなやり方があるよ」ということを、学んでほしいですね。