タイ赴任中にCQの重要性に気づく
宮森千嘉子氏(以下、宮森):髙林さんはタイに赴任中の2020年からCQについて学ばれ、CQラボの異文化エキスパート講座(現CQ実践コース)とホフステードCWQ認定アソシエイトコースを修了されています。
帰国されて今のポジションに就任後、すぐに東レグループの経営後継人材の育成を目的に新設した経営リーダー研修でCQの講座を取り入れてくださいましたね。東レさんは既に、グローバルでの輝かしい実績をお持ちです。それでも、リーダーの育成にはCQが必須だと考えられたのはなぜでしょうか?
髙林和明氏(以下、髙林):私は1980年に東レに入社して以来ずっと国内の仕事をしていたのですが、2017年に突然「タイに行け」と言われて初めて海外赴任をすることになりました。
宮森:約4,000人の従業員を抱えるタイの東レグループ会社9社の代表として行かれたんですよね。
髙林:はい。当時はマーケティング企画室長として東レ全体の取りまとめをしていましたが、会社の主要ドメインである繊維事業は未経験でした。だから、「本当に私ですか?」と上司や東レの社長に聞きましたよ。
それまで出張で20カ国は行っていましたが、出張するのと実際に住んでみるのとでは大違いでした。私は京都大学の教育学部出身で、常に関心を持っているのが「人の心」です。だから、タイで過ごして「こんなに違う人たちなんだ」と感じ、とても興味深かったことを覚えています。
宮森:どんな“違い”を感じましたか?
髙林:たとえば、コーチングをしようにも、タイでは上司が部下に対して質問をすると、「この上司は仕事ができない」とか「わかっていない」と思われてしまうんです。
宮森:「ホフステードの6次元モデル」でいう「権力格差」が大きいというタイの特徴をよく表す話ですね。「集団主義」の国でもあるので、メンツを気にするというのも大きそうです。
髙林:「集団主義」が強いと競争意識が働かないですよね。「3S運動」のようなことをやっても、「工場を綺麗に」と指示しただけでは全然やらない。米国や中国なら「報奨が出る」と言えば頑張るかもしれないけれど、タイではそれも通じません。しかし、工場間で相互査察をさせると、恥をかきたくないからものすごく一生懸命取り組みます。
宮森:メンツを失うのが嫌なんですね。
髙林:そうです。人の心に火をつけるポイントは国によって違うということを実感しました。
宮森:そういうご経験があって、次世代の経営リーダーの育成にはCQが必要だと思われたわけですね。