未来シナリオから描いた「鉄道一本足打法」からの脱却
西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)は1987年の民営化以降、順調に成長してきた一方で、長期的な課題を多く抱えていた。人口減少や少子高齢化が進行したことで、特に地方エリアでは人財確保が困難な状況が顕著になりつつあったのだ。喜多岡氏は「足元の好調な業績に甘んじ、変化に鈍感だった」と振り返り、環境の変化への対応が遅れていた様を「ゆでガエル」とたとえた。
この状況を大きく揺るがしたのが、新型コロナウイルスのパンデミックだ。山陽新幹線の利用者数は前年同期比で11%にまで激減し、2020年から2021年にかけて、JR西日本グループはそれぞれ2,000億円、1,000億円超の赤字を計上。経営危機に陥った。以降、鉄道利用者数は徐々に回復しつつあるものの、コロナ前の水準には未だ戻っていない。
同業他社との比較からも課題が浮き彫りになった。阪急電鉄や東急電鉄など、一部の鉄道会社は2020年度からすでに利益を計上していたのだ。一方、JR西日本は、これまで進めてきたショッピングセンターや駅ナカでの物販・飲食といった多角化事業も、実質的には鉄道利用が前提となっていた。鉄道への依存が想像以上に強かったことを改めて認識したと同氏は話す。
2020年4月、社長の長谷川一明氏から「コロナ後の社会における新しいJR西日本グループの姿を描くように」というミッションが課された。若手を中心としたチームがすぐに立ち上がり、ワークショップなどを通じ議論が重ねられた。
不透明な未来を「人口が集中するのか分散するのか」「余暇をリアルで過ごすのかデジタルで過ごすのか」という2つの軸に基づく4象限でシナリオ分析したものの、そこで見えてきたのは、いかなる未来においても鉄道の基礎需要が減少するという厳しい現実だった。
そこで、従来は鉄道事業や駅の集客力を基軸に事業展開してきたJR西日本だが、今後は移動だけに依存しないビジネスモデルへの転換が不可欠だと結論付けられた。そして、これからの世界ではデジタル化は避けられないとの見解から、その鍵となるのはデータとテクノロジーの徹底活用であると位置付けられた。
そこでは主に「3つの再構築」に取り組んだが、それぞれに壁も存在したという。