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JR西日本がコロナ危機で描いた、鉄道一本足打法からの脱却──現場の暗黙知とデータ活用によるDXとは?

登壇者:西日本旅客鉄道株式会社 喜多岡直孝氏、橋本祐典氏

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JR西日本が描く「3つの再構築」とそこに立ちはだかった「3つの壁」とは

 コロナ禍を経てJR西日本が策定したグループデジタル戦略は、3つの「再構築」からなる。

JR西日本が策定したグループデジタル戦略、3つの「再構築」
JR西日本の投影資料より/クリックすると拡大します

 第一は、鉄道システムの再構築だ。鉄道事業は長年、熟練技術者の「匠の技」に依存してきたが、これをテクノロジーで標準化し、効率化と安全性を向上させる取り組みだ。

 その一例として、自動改札機の故障を予測するAIの導入が挙げられる。導入後は、点検回数や故障の発生率が大幅に減っているという。また、防犯カメラの画像を解析することで、特定の動作を検知するAIの開発も進展しており、鉄道業界内外での活用が期待されている。

 2つ目は、顧客体験の再構築だ。これは、グループの各事業をデジタルで統合し、シームレスな移動や購買体験を提供すること、そして需要を自ら生み出していくことを目的としている。

 たとえば、広島—東京間の移動における新幹線と航空機の利用状況を分析した例では、空港への往復の乗車データや新幹線予約データを組み合わせ、航空機を選択する際の要因を深く分析しているという。従来、鉄道業界では顧客を集団として捉えていたが、個々の顧客についてニーズを分析することで、新たなサービスのための基盤が生まれている。

 さらに、JR西日本のナビアプリ「WESTER」と株式会社ギックスが提供するスタンプラリーシステム「マイグル」を融合させた取り組みでは、年間80万人が参加するキャンペーンを実施。データを基にしたサービスのカスタマイズと、それを通じてデータを取得する好循環を生み出している。

マイグル
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 3つ目は、従業員体験の再構築だ。従業員が効率的かつ創造的に働ける環境を整えることで、組織全体の進化を支えている。無駄の排除やコミュニケーションの円滑化を図りつつ、個々の価値創造を後押しすることが、これらの取り組みの核心だ。

 こうした変革を進める中で、3つの「壁」が課題として浮き彫りになった、と喜多岡氏は振り返る。第一は、デジタルへの“何となく”の嫌悪感による「デジタルアレルギー」。第二は、過去の成功体験に縛られ、現状維持を求める「今がいい」の壁。そして第三は、どうしても部分最適に陥りがちな「自分ファースト」の壁である。

 これらの壁を乗り越えるため、JR西日本は3つの対策を実施した。まず、トップダウンとボトムアップを融合させた意識改革を推進。経営層がデジタル化の意義を率先して訴える一方で、現場からの具体的な課題解決の提案を受け入れる体制を整えた。また、データの可視化や小さな成功体験を積み重ねることで、デジタル技術の実効性を現場に浸透させ、信頼を醸成。さらに、自部門の利益だけでなく、他部門への貢献度も評価する仕組みを導入したことにより、グループ全体の利益を意識した行動を促進した。

画像を説明するテキストなくても可
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 そして、これらすべてを支える根底には、一見デジタル化と矛盾するようにも思われる「足で稼ぐ仲間作り」があったと喜多岡氏は話す。現場に徹底して向き合うなかでデジタル化を進めることが、JR西日本におけるDX推進の基盤となっているのだ。

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可視化とデータ活用が生み出した、DX推進に欠かせない協業の文化

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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