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JR西日本がコロナ危機で描いた、鉄道一本足打法からの脱却──現場の暗黙知とデータ活用によるDXとは?

登壇者:西日本旅客鉄道株式会社 喜多岡直孝氏、橋本祐典氏

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高度な専門性を持つ人財の確保と「TRAILBLAZER」の設立

 喜多岡氏の講演の最後、そして橋本氏を加えたパネルディスカッションでは、デジタル人財の発掘と育成に焦点が当てられた。ここではその内容をまとめてレポートする。

 まず喜多岡氏からは、JR西日本では「専門人財、デジタル推進のキーパーソン、全社員のデジタルリテラシー向上という3つの軸で人財育成に取り組んでいる」との説明があった。特に、現場での意識改革を促進するキーパーソンの存在は、デジタル技術の円滑な導入と浸透を支える要となるため、重要視しているという。

画像を説明するテキストなくても可

 現在、専門人財については、グループ内にも素養を持っている人財がいたため、デジタルソリューション本部では、ポスト公募制度を活用するほか、直接のリクルート活動なども行っているという。もちろん、デジタル人財をすべての部署から引き抜くべきではない。改革をリードする人財は、現場にも必要だと同氏は語る。

 さらに、鉄道会社特有の人事制度と、デジタル分野の人財が求める自由度の高い働き方との間には、しばしばミスマッチが生じる。このような課題に対応するため、ギックス社との協力のもと、同社は「TRAILBLAZER」というデジタルコンサルティングエージェンシーを設立した。以来1年で40名以上の高度専門人財が在籍するほどに成長。JR西日本グループ全体のプロジェクトを、デジタル面で支えている。同組織のおかげで、グループ全体が一体感を保ちながら、柔軟かつ効率的に高度専門職が活躍できる環境が整ったと言える。

 新たなサービスの創出も進んでいる。現在、同社は「Moving is Value」をコンセプトに掲げ、コード決済サービス「Wesmo!」の導入を進めている。個人間送金やキャッシュレス決済に加え、企業間送金やデジタル給与払いなど、多様な機能を展開することで、社会全体に価値を循環させる仕組みを目指している。もちろん、購買データを活用してさらに顧客体験を向上させるという戦略的な狙いもある。

 これまで、JR西日本は、新卒一括採用を通じ、既存事業を担う人財の育成を中心に行ってきた。しかし、近年では「両利きの経営」の理念を取り入れ、探索型の取り組みを推進できる人財の育成にも力を入れている。この探索型人財の育成において鍵となるのが、現場の理解だ。喜多岡氏は「課題認識は現場を知ることで初めて生まれる」と語り、現場のリアルな実態を理解することがDX推進の出発点であると指摘する。

 JR西日本には、新卒および中途採用の社員が、まず現場を経験する文化が深く根付いている。現場での経験を経てデジタルソリューション部に配属される社員も少なくない。喜多岡氏は「現場を経験した社員からは、私たちが想像している以上にアナログなプロセスが残っていると指摘されることがある。こうした現場の視点がDX推進における貴重な洞察となる」と述べ、現場とデジタル領域を結びつけることが重要だと指摘する。

橋本祐典
西日本旅客鉄道株式会社 WESTER-X事業部課長、株式会社JR西日本イノベーションズ 社外取締役 橋本祐典氏

  一般的には、DXを推進する部門と、既存業務を管轄する部門のあいだで衝突が見られものの、既存業務を熟知している人財がデジタル化や効率化に携われば、現場とDXのチームの乖離は最小限に抑えられる。橋本氏によれば、現場との擦り合わせも丁寧に行っているという。実際、自動改札機の故障予測AIは、基本アルゴリズムの開発の後、現場での検証や実装にはおよそ1年かかっているという。現実の業務を実際に改善することに重きを置き、対話を積み重ねている証左だ。

 アナログとデジタルの垣根を超え、現場での課題認識をDX推進の基盤とする同社の姿勢は、多くの企業にとってDX推進のモデルケースとなるだろう。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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