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経営戦略としての人的資本経営

創業経営者にあり、サラリーマン社長にはないもの──佐藤教授に聞く「事業家思考」と「投資家思考」とは?

前編:早稲田大学大学院 佐藤克宏氏、一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CFO協会 日置圭介氏

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価値観を現代語訳したMVVで「新しい護送船団方式」を確立するべき

──日本企業の経営には投資家的な視点が不足しているというお話でしたが、「事業家」の面ではいかがでしょうか。何か課題に感じている点はありますか。

佐藤:事業とは、つまり戦略を策定して実行するまでの一連のプロセスを指すのですが、このプロセスが1970年代の高度成長期のまま固まっている企業が少なくないと思います。当時は、市場全体が拡大していたので、コストの低減を進め、単位時間あたりの生産効率を高めて、モノを安く・多く生産して売れば、会社を成長させることができました。だから、戦略も現場や事業部門が主導して立てられることが多かった。しばしば、日本企業の事業戦略が事業部ごとの戦略をホッチキス留めしたような内容になるのは、これが要因です。

 しかし、いまでは世の中の状況は大きく変わっています。市場は成熟し、不確実な事態への対応や新領域に踏み込まなければいけない場面も増えてきました。こうしたなかでは、組織がまとまって前進するための指針を経営者が示さなければいけません。『戦略としての企業価値』では、それがMVVだと説明しています。

──たしかに、「事業家的な思考」の最上位にはMVVが配置されていますね。

佐藤:急速に変化する環境のなかで、企業の羅針盤になり得るのはMVVに他なりません。そして、MVVにリンクする形で、全社戦略があり、各事業の事業戦略やサプライチェーンなどの機能戦略が位置付けられなければいけません。

 誤解を恐れずにいえば、MVVという旗頭が明確であれば、組織は護送船団方式で構わないわけです。MVVという価値観を中心に各事業部が隊列を成して前進する護送船団方式です。私はこれこそが現代のあるべき経営の姿だと思っています。

日置圭介
一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CFO協会シニア・エグゼクティブ 日置圭介氏

日置:「新しい護送船団方式」ですね。それは言い得て妙だと思います。というのは、市場環境が激変するなかで、なぜ同じグループに属しているのかわからない事業群を持ち続けている企業が散見されるからです。いわゆるポートフォリオ的な議論になりますが、今の時代において、組織一体となった戦略を打ち出すには、技術や市場の距離感の大切さを否定はしませんが、大前提として同じ価値観を共有できていなければいけないのでしょうね。その意味でも、事業の最上位にMVVを位置付けられているのは、非常に納得感があります。

佐藤:別の言い方をすれば、MVVは経営の羅針盤であるとともに、事業や組織の接着剤ですね。全く異なる人々や事業を繋げてまとめ上げるためのメッセージ。しかし、これがどこか精神論というか、ありきたりな美徳に着地してしまうことが少なくないです。それでは利害の異なる数多くのステークホルダーをまとめることはできません。その点、例えば、Googleの「世界中のあらゆる情報を整理し、世界中の人々がワンクリックでアクセスして使えるようにすること」というミッションやビジョンは非常に明確かつ具体的で、さすがだなと。

日置:日本の例でいえば、ソニーの「世界を感動で満たす」というパーパスが秀逸ですよね。ただ、これは、木に竹を接ぐように、借りてきた言葉を据え付けたわけではないように思うんです。ソニーであれば、「自由闊達にして愉快なる理想工場」を掲げた時から感動を尊ぶ価値観が長らく社内に根付いていたからこそ、あのパーパスに多くの社員が心を寄せることができた。だから、MVVにせよパーパスにせよ重要なのは、「価値観の現代語訳」だと思うんです。長らく組織のなかに根付いていた価値観を現代の言葉に翻訳することが大切なのかなと。

佐藤:今後、価値観で会社を選ぶ人々はさらに増えていくでしょうし、人材確保の面でもMVVやパーパスは重要になっていくでしょうね。「人はパンのみにて生くるものにあらず」。キリストはうまいことを言ったものです。事業上の戦略を定めるうえではもちろん、戦略を担う組織を築くためにも、そして人材を惹きつけ活躍してもらうためにも、MVVはますます重要視されることになると思います。

一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CFO協会シニア・エグゼクティブ日置圭介氏と、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の佐藤克宏氏が登壇!

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島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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