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なぜ味の素グループは攻めの知財戦略を加速するのか──両利きの人財育成と三位一体のIPランドスケープ

LexisNexis PatentSight+ Summit 2025 レポートVol.1:味の素株式会社 泉井裕氏

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世界トップシェアを支える「三位一体の知財戦略」

 続いて、泉井氏は攻めの知財戦略を「三位一体の知財戦略」と説明する。

「事業、R&D、知財が一体となり戦略を遂行していくのが、三位一体の知財戦略です。3つの部門が一体となり、情報収集や分析を通じてビジネスモデルを設計し、新たな特許ポートフォリオを構築して事業に活用する。このサイクルを回し続けることが、事業の創出や拡大に最も寄与すると考えています」

 その一例として、泉井氏は電子材料事業における高速開発システムを挙げる。味の素グループは電磁材料事業において「Ajinomoto Build-up Film®(ABF)」と呼ばれる絶縁材料を展開している。ABFはパソコンのCPUなどに利用されており、層間絶縁材としてはデファクトスタンダードの地位を占める。

 しかし、一方で顧客からの要求技術は年々高度化しており、継続的な性能の向上が必要だ。そこで、味の素グループは事業、R&D、知財が一体となり、顧客情報、課題をいちはやく入手して、誰よりも早く解決する高速開発システムを構築。顧客のニーズに即した性能向上を可能にするとともに、特許ポートフォリオの質と量の増大にも貢献している。

 また、味の素グループは、知財情報の収集や分析から経営課題や事業機会を特定する「IPランドスケープ」活動も、この三位一体の推進体制を採用している。

「例えば、特許担当者は特定の事業領域や技術領域における知財戦略策定においてIPランドスケープを活用し、戦略担当者はグループ横断的な事業戦略策定においてそれを活用しています。いずれの場合も市場や技術の分析の段階から事業部門やR&D部門が参画し、その後の提案やブラッシュアップにも携わりながら、IPランドスケープを実践しています」

 泉井氏はIPランドスケープの取り組みとして、温室効果ガス(GHG)削減技術の事例を紹介した。味の素グループは「ヘルスケア」「フード&ウェルネス」「ICT」「グリーン」の4つの成長領域を定めている。そのうち「グリーン」領域では、アミノ酸利用技術を活かした低タンパク質飼料の展開などを通じてGHG削減に取り組んでいる。こうした活動に加え、IPランドスケープを通じて、味の素グループでこの先注目すべきGHG削減に関わる技術の提案を行っている。

事業フェーズ別の知財ポートフォリオ戦略

 さらに攻めの知財戦略においては、戦略的な特許のポートフォリオ構築も求められる。泉井氏はバイオ医薬領域と電子材料領域の特許の状況を、あるグラフに示して説明した。

画像を説明するテキストなくても可
味の素株式会社 泉井裕氏の講演資料より/クリックすると拡大します

「このグラフは縦軸に『特許の質』を、横軸に『特許の量』としたグラフです。バイオ医薬領域の特許は、『特許の量』を維持しつつも、『特許の質』を高める方向へとポートフォリオを構築しています。現状、味の素グループにおけるバイオ医薬領域はコア技術開発のフェーズであるため、市場から注目される排他性の高い特許を取得することを進めています。一方で、電子材料領域の特許は『特許の質』を維持しつつも大きく『特許の量』を伸ばしています。これは「Ajinomoto Build-up Film ® (ABF)」ではデファクトスタンダードの地位を築いていることにより、広範な配合設計を権利化することで、参入障壁を強化しているためです。このように味の素グループでは、事業フェーズごとに特許の量と質を適正化して、知財のポートフォリオを構築しています」

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「専門家」と「戦略家」を両立する知財人財育成ロードマップ

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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