AIエージェントの浸透で変貌する知財業務
ここまでのディスカッションを通じて、知財業務の上流から下流までの幅広い領域で生成AIが力を発揮することがわかった。それを踏まえ、齋藤氏は「さらに生成AIの活用を進めるには、組織はどのように変わるべきか」と質問を投げかけた。
旭化成は生成AIの活用促進などを目的に、2025年4月に知財部門を再編している。部門内に「技術情報グループ」を新設し、生成AI活用の高度化や普及を担う専任担当者も配置した。風間氏はこれらの体制を基軸に、さらなる生成AI活用を進めたいと意気込みを語った。
「本日の議論を伺って、当社でも生成AIの活用をより進めなければと強く感じました。今後、技術情報グループを中心に各種取り組みを強化していこうと思います」(風間氏)
島津製作所では部内のAIに精通した技術者などを集め、ワーキンググループを組成することで、生成AI活用を推進している。横断的な専門知識の結集により、より効果的な活用方法の開発を目指すと語った。
昨今、生成AIが人間の業務を奪うという話題がしばしば取り沙汰される。しかし、ワーキンググループなどの活動を通じて、今後、知財部員にはさらなる活躍が期待されると阿久津氏は話す。
「当社の知財部門を管掌する執行役員は、知財業務から定型作業が大幅に減り、知財戦略の構想や実行へのコミットが求められるはずなので、知財部員はますます忙しくなると語っています。知財部門は今後、戦略面に特化した組織へと変化する必要があるのではないかと考えています」(阿久津氏)
京セラの竹口氏は、生成AIの活用促進のため2週間に1回の定例会議を実施していると明かした。定期的に課題を整理し、次回の会議までに課題解決に向けたアクションを取ることで、生成AIの活用レベルを着実に高めている。
また、他部門も交えた月例会議にあたっては、生成AIに関する報告を会議の冒頭で行うといった工夫も凝らしている。会議の冒頭で生成AI活用の進捗を発表することで、他部門の参加者に生成AIを業務課題に適用しようという気づきやきっかけを与えたいのだという。
セッションの最後に、齋藤氏が生成AIと知財業務の今後について尋ねると、竹口氏は、自律型AIである「AIエージェント」の普及による知財業務の変化について展望を語り、パネルディスカッションを締めた。

「タスクごとにAIにプロンプトを入力する生成AIが現在は主流ですが、今後、AIが自律的にタスクを選択し、遂行するAIエージェントが普及していきます。そうすると知財業務における定型業務はほぼ効率化されます。結果的に知財部員の役割は、創造的な業務にシフトしていくはずです。自社の特許を活用してどのような事業を創造するのか。そうしたビジョンを描くことがこれからの知財部員に求められる仕事ではないでしょうか」(竹口氏)
