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両利きの経営2025

キリングループDX推進室が挑んだ、自社構築生成AIの国内従業員15,000人への浸透 成功の秘訣とは

ゲスト:キリンホールディングス株式会社 デジタルICT戦略部 DX戦略推進室 室長 野々村俊介氏

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DX推進室と各部門の“理想の役割分担”とは

小宮昌人
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO 小宮昌人氏

小宮:現在、BuddyAIをマーケティング領域から他領域に展開中とのことですが、その取り組みは野々村さんらのDX戦略推進室がリードしているのですか。

野々村:リード役は担っていますが、実際の展開においては各領域の自律的な取り組みを推奨しています。実は、当初の計画ではBuddyAIというグループ共通基盤ではなく、各領域に特化した別々の生成AIツールを私たちが主導して開発する予定でした。

 しかし、KIRIN BuddyAI for Marketingをマーケティング領域に先行して導入するなかで、現場の社員たちの生きた業務知識をツールに反映していくことの重要性を痛感しました。また、人的・時間的なリソースを考慮しても、DX戦略推進室がすべての領域のツールを導入するのは現実的ではありません。そのため、各領域が主導的してBuddyAIをカスタマイズしていく方向で計画を変更することになりました。

小宮:それは重要なポイントだと思います。領域ごとに業務内容は異なるので、生成AIのユースケースや有効なプロンプトも違います。そのため、汎用的な生成AIツールを全社展開してしまうと、ユーザーにとっては利便性が低く、活用が思いのほか進まないケースが少なくありません。かといって、各領域に特化したツールを個別に開発するのはリソースがかかりすぎてしまいます。

 これは生成AI活用における「あるある」なのですが、キリングループはそのジレンマを乗り越えようとしているのではないでしょうか。一方で、民主的な展開には難しさもあるはずです。展開の現状はいかがでしょうか。

野々村:手応えと課題の両方があるといったところでしょうか。以前からグループ内では生成AIへの期待が高く、ある領域では展開後の約一ヵ月間でBuddyAIの利用率が6割以上にのぼるなど好評を博しています。ただ一方で、「どう使えばよいか分からない」と困惑している部門やユーザーがいるのも事実です。そのため、今後は私たちが主導してユースケースの体系化や、RAGの検索元となるデータの整備などを進めていきます。

小宮:「先駆者だからこそ試行錯誤や見えてきた課題」という印象です。

なぜプロンプトをチェックしないのか。生成AI導入時のコツ

──キリングループにおける生成AI活用の展望をお聞かせいただけますか。

野々村:今後は、BuddyAIの活用を通じて、目に見える形で価値創造の成果を出したいと思っています。具体的に言えば、新規事業の創出です。BuddyAIを用いて新たなアイデアやコンセプトを創り上げるだけでなく、新規事業創出のプロセスを効率化することで、より多くの価値を生み出せると思います。従来、新規事業を起案すると、さまざまな関係者のチェックや承認を得る必要がありました。新規事業のアイデアを多角的に検討するという点では有意義なのですが、その一方で複雑なプロセスが事業創出の効率性を落としていた面も否めません。そうした検証プロセスにBuddyAIを用いれば、よりシンプルな意思決定が可能になり、新規事業を今以上にスムーズに生み出せるのではないかと期待しています。

小宮:新規事業をより創出しやすくなれば、チャレンジングな雰囲気が醸成され、組織の風土改革にもつながりそうです。

野々村:そうですね。そのためにも、まずはBuddyAIのさらなる浸透を図るのが目の前の目標です。実は、BuddyAIの浸透を促すため、DX戦略推進室ではプロンプトの入力内容をチェックしていません。導入を進めるなかで気付いたのですが、管理者にプロンプトを把握されるのはユーザーにとって少なくないストレスのようです。そうしたストレスは浸透の妨げになるため、プロンプトはチェックしない方針を定め、ユーザーにも広く周知しています。ただし、プロンプトの入力内容も貴重なデータであることは間違いないので、今後は秘匿性と公開性のバランスを取りながら、最適な運用方針を見極めたいです。

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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