受講者数3,800名超のDX道場

小宮:まさにKIRIN Digital Vision 2035は両利きの経営のお手本のビジョンだと思います。優先順位としては生産性向上を先に位置付けているものの、それは後に控える価値創造のためにあるわけですね。デジタル戦略を2軸で展開しながらも、価値創造に比重を置いている点が意欲的で素晴らしいと思います。
ところで、こうしたビジョンや方針を組織内に普及・浸透する仕組みや仕掛けはあるのでしょうか。キリングループほどの巨大な規模の組織が、ビジョンをどのように落とし込んでいるのかが気になります。
野々村:仕組みの1つとしては「DX道場」があります。DX道場はDX人材育成に向けたデジタルリテラシーおよびスキル向上のプログラムです。「白帯」「黒帯」「師範」の3段階で講座のレベルを設定し、各レベルの認定試験に合格すると上位レベルの講座を受講できます。受講者数は2023年末には3,800名を超えるなど、グループにおけるデジタル活用の機運向上に大きな貢献を果たしています。
また、2024年から2025年にかけてはグループ全社的な普及活動も広がっています。その1つが、グループ独自の生成AIツール「BuddyAI」の普及を担うアンバサダー制度です。BuddyAIは昨年11月にリリースされ、今年5月には国内従業員15,000人に展開されました。アンバサダーの役割は、BuddyAIの活用や付随するスキルのリード役なのですが、すでにグループ内から400名を超える応募が集まっています。
小宮:有志で400名以上が応募しているのですね。応募者の属性に年齢層や部門などの傾向はありますか。
野々村:私も意外だったのですが、応募者の属性は非常に多様でした。若手層が中心になるかと想定していたのですが、役職者などのベテランの応募者も非常に多かったです。
小宮:なるほど。それは素晴らしいですね。キリングループのデジタルに対する熱の高さが伺えるエピソードです。
3つのフェーズで「民主的な生成AI導入」を推進
──ここからはキリングループにおける生成AI活用についてお伺いします。先ほども話題に挙がったBuddyAIの概要と現状をお聞かせいただけますか。
野々村:BuddyAIは、社員たちが生成AIを「Buddy(相棒)」として日常業務で使いこなす状態を目標に開発した独自ツールです。文書作成や資料作成といった汎用業務への活用はもちろん、壁打ちやコンセプト開発、ネーミング・ワーディング支援などの創造的な業務へも活用します。
3段階での展開を見据えており、2024年11月に1段階目としてマーケティング領域特化のプロンプトテンプレートを実装した「KIRIN BuddyAI for Marketing」をリリース。特定の部門でプロンプトやデータ整備の知見を蓄積したのち、現在は2段階目の他領域への水平展開を進めています。そして、3段階目では各領域のBuddyAIを連携し、それぞれのユースケースや機能を移植し合うなどして、活用のさらなる高度化を目指します。

小宮:マーケティング領域で導入を開始した理由はあるのでしょうか。
野々村:先ほども述べたとおり、当社のデジタル活用においては「価値創造」を特に重視しています。そのため、生成AIの活用が価値創造に繋がりやすい領域から導入を始めたいという狙いがありました。マーケティング領域ではコピーライティングやネーミングなど、生成AIを活用しやすいクリエイティブな業務が多いです。一方で、資料作成などの汎用業務も多く、生産性向上の効果も期待できました。こうした業務にBuddyAIを用いることで、価値創造の効果がどの程度得られるか検証したかったというのが、マーケティング領域をスタート地点にした理由です。
小宮:RAGの検索元になるデータがすでに整備されていたという理由もあったのではないでしょうか。
野々村:おっしゃる通りですね。他の領域に比べると、マーケティング領域は業務のデジタル化が進んでいたこともあり、BuddyAIをカスタマイズするためのデータがある程度揃っていました。実際に、KIRIN BuddyAI for Marketingでは、過去の企画書のデータをRAGの検索元に設定し、ユーザーの企画書作成をガイドする機能を実装しています。