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組織戦略としてのデザイン

パナソニックのデザイン組織が実践した、未来と顧客を起点とするUXの浸透 戦略の実行と変革の現在地とは

【前編】パナソニック株式会社 デザイン本部 戦略統括室/Panasonic Design London ディレクター 池田武央氏

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 2019年にグループ各社のデザイン部門を統括する「デザイン本部」を設置し、一方で現在も全社プロジェクト「デザイン経営実践プロジェクト」を推進するパナソニック。伝統的な大企業であるパナソニックが、グループ各社を横断した組織体制を築き、全社一丸となった経営や事業へのデザインの実装を可能にした理由と施策とは。その過程には、どのような壁が立ちはだかり、どのように苦境を乗り越えたのか。取り組みのキーパーソンの一人である、デザイン本部 戦略統括室/Panasonic Design London ディレクターの池田武央氏に、Biz/Zine編集部コンテンツプロデューサーの栗原茂が迫った。

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デザイン組織が経営に貢献するための戦略づくり

池田武央
パナソニック株式会社 デザイン本部 戦略統括室/Panasonic Design London ディレクター 池田武央氏
フィンランドのアアルト大学でストラテジーデザイン修士を取得後、英国のクリエイティブコンサルティングファーム・シーモアパウエルにて、10年以上に渡りグローバル企業向けのブランドビジョンやデザインストラテジー立案に従事。2018年4月にディレクターとしてパナソニックに入社。アプライアンス社デザインセンター(当時)にてデザイン組織の改革に着手。その後、B2Cの家電事業から、B2Bのエネルギー事業に至るまで、幅広い事業に対するデザインの経営貢献を強化。現在、Panasonic Design Londonにて、デザイン組織の海外機能強化を担当。

Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):池田さんは前職で英国のクリエイティブコンサルティングファーム「シーモアパウエル」に勤めていましたよね。パナソニックに転じた理由は何だったのでしょうか。

池田武央氏(以下、池田):以前から「インハウスの内情を知らずに理想論ばかり振りかざして良いのだろうか」という、コンサルタントとしての迷いはありました。正直なところ、ロンドンのクリエイティブコンサルの人間が理想論を語ると、日本企業のクライアントの皆さんは興味を持って耳を傾けてくれます。悪い気はしないのですが、インハウスの実務を経験したことがないことに負い目を感じていました。一度はどこかで泥臭い環境に身を置かないと、真に的確な提案はできないのではないかと。

 そうしたなか、後でご紹介するパナソニックデザインの戦略立案の仕事を、現在の上司である臼井(重雄氏。現・パナソニック ホールディングス 執行役員 デザイン担当/デザイン経営実践プロジェクトリーダー)からもらい、そのプロジェクト終了後に、今回提案してくれた戦略の実行を一緒にやらないかとオファーを受けて、入社を決めたというのが経緯です。

栗原:シーモアパウエル時代には、具体的にパナソニックのどのような案件を担当したんですか。

池田:プロダクトデザインからクリエイティブディレクションまで幅広い案件を手がけました。特に現在の活動につながっているのは、先にもお話しした、転職直前に担当した当時の家電部門におけるデザイン組織の戦略づくりです。デザイン組織がより経営に貢献するための戦略を、当時家電部門のデザインセンター長だった臼井から依頼を受けて構想することになりました。

 その際に私は、当時のパナソニックデザインの現状と国内外のベストプラクティスの分析から、デザイン組織の戦略として「多様化」「流動化」「一元化」という3つの方針を提案しています。

「多様化」「流動化」「一元化」
パナソニックのデザイン組織の改革の骨子となった「多様化」「流動化」「一元化」という3つの方針とそれぞれの具体施策/クリックすると拡大します

 1つ目の「多様化」とは、デザイン組織の職能をより多様化することです。現在、パナソニックではデザインのプロセスを「気づく・考える・つくる・伝える」の4段階で分類していますが、以前はモノやデザインを「つくる」ことに人材や職能が偏重していました。そうした状況から、デザインリサーチなどを通して、未来の兆しに「気づく」ことや、そこから新たな価値領域を「考える」ことができるような多様化が方針の1つでした。

デザイン組織の「多様化」
デザイン組織の「多様化」/クリックすると拡大します

 2つ目が「流動化」。社内外の人材、情報や技術との交流を促し組織の流動性を高めることが目標です。2018年に開設されたデザイン組織の拠点「Panasonic Design Kyoto」は、社内外とつながるクリエイティブハブとなっているのですが、こうした点に流動化の方針が反映されています。

デザイン組織の「流動化」
デザイン組織の「流動化」/クリックすると拡大します
デザイン組織の拠点「Panasonic Design Kyoto」
デザイン組織の拠点「Panasonic Design Kyoto」

 そして、最後が「一元化」。これは組織一丸となってデザインを推進するための共通のフレームワークを策定しようというものです。従来、パナソニックは「Future Craft」というデザインフィロソフィーを有していたものの、それを踏まえて、実際にどのようなフレームワークの中で顧客価値を構築していくかが明確ではありませんでした。

 組織的なデザインを実現するため、共通して取り組む具体的施策を構築しようとしたのが一元化でした。その結果、現在も続く「VISION UX[1]」、またはお客様と製品の接点を統一した世界観でデザインする「360UX」といった取り組みや、経営層との対話を増やすための場が確立されるに至ります。

VISION UX

栗原:その後、パナソニックに入社されて、ご自身で戦略の実行を担っていくことになると。その活動が現在に至るパナソニックのデザイン組織の変革の礎になったわけですね。


[1]VISION UX」:気候変動や資源枯渇といった地球規模の課題に直面するなか、パナソニック デザイン本部が取り組む未来構想活動。家庭、職場、地域における5〜10年後の実現すべきくらしのビジョンを描き、既存事業の枠を超えた価値創造に挑んでいる。

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浸透させたかった「広義のデザインプロセス」「未来起点」「顧客起点」とは

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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