オムロンの事例に学ぶ、ビジネスプロデュースCoEの評価の仕組み
では現在、新規事業開発に携わる部門長や現場の担当者である皆さんが、ビジネスプロデュースCoEのような機能を自社で導入するために、今すぐ始められることは何でしょうか。
まずは、新規事業はアプローチ次第で成功確率と再現性を向上できると認識することです。その上で、現在のメンバーの中で部分的にビジネスプロデュースCoEの役割を担っていき、新規事業組織における大きな方針(目標やアプローチ、検討プロセス等)を定めるようにしましょう。
現場と経営の橋渡し役を意識的に設けて共通認識化を図り、進捗管理を体系化してみるなど、できることは多くあります。そうすることで現在の新規事業の課題が整理され、ビジネスプロデュースCoEに求められる機能が浮き彫りになります。
ある程度の方向性が見えてきたら、経営層に対して新規事業の方向性と、そのために必要なビジネスプロデュースCoE組織の設立を提案してみてください。
その際は、ビジネスプロデュースCoEの具体的な目標やKPIを定めてコミットした上で、必要な人材・予算を明確にして提案することが重要です。
このビジネスプロデュースCoE自体の評価は、組織全体の新規事業創出KPIの達成度で測定します。年間の事業化件数、フェーズ別の案件数、各フェーズでの通過率といったプロセス指標に加えて、ビジネスプロデュースCoE候補者の育成人数、現場メンバーから事業化リーダーになった人数といった人材育成指標が効果的です。これらの指標向上を通じて新規事業の組織能力が高まっていることを評価します。
たとえば、オムロンではイノベーション推進本部(IXI)という組織が新規事業創造の役割を担っていますが、最終的な結果だけではなく、IXIで定めた事業創造プロセスを回すこと自体を評価しており、「トライ&エラー」を敢えて「トライ&ラーン」と呼ぶことで、失敗を学びとして捉えることを推奨しています。また、事業創造に携わる人材のケイパビリティも明確に定義しています。その中でも、仮説検証を繰り返し、顧客にとっての本質的価値を見出し、ビジネスモデルを具現化する能力・スキルを有する「アーキテクト人財」の育成が重要な指標となっています。
重要なのは、売上などの結果だけでなく、プロセス自体を評価対象とすることです。やはり売上や契約数などの成果は外部要因にも左右されることが多いため、組織としての活動によって達成できるプロセス指標をKPIとし、次のアクションにつながる設計にすることが非常に重要です。
日本企業こそ新規事業を“組織的な日常業務”にすべき
私たちがビジネスプロデュースCoEの考え方を提唱し始めたのは、約3~4年前からです。きっかけは、リーンスタートアップを中心とした新規事業の「2周目」の手法が大企業の中で機能していないことを実感したためです。経営と現場があまりにも離れすぎており、そのギャップが埋まっていないことが大きな要因でした。目標設定とアプローチがぴったりと合わないケースを数多く目の当たりにし、現場側に経営目線を入れていく役割が必要だと確信したのです。
興味深いことに、このような考え方は日本独特のものかもしれません。海外、特に米国では、大企業に対してイノベーションや新規事業の役割をそれほど期待しない風潮があるように思います。スタートアップが新しい事業を生み出し、大きな企業は既存事業が成熟したら徐々に役割を終えていく、もしくはM&Aなどを通じた事業の転換を進めていくという考え方が強いと感じています。
しかし、日本では大企業が継続的に成長し、新規事業を生み出すことへの期待が高く、実際にそれが可能な環境もあります。内部留保も豊富で、グローバルな展開基盤も持っています。また、日本企業の特性を考えれば、会社が継続的に成長し続けることで従業員のキャリアも発展していくといった構造も欠かせないはずです。
そんな日本企業が今後も継続的に成長するためには、新規事業創出が日常業務になることが不可欠でしょう。そのためには個人のスキルに依存するのではなく、組織として再現性のある仕組みを構築することが重要であり、ビジネスプロデュースCoEはその中核を担う存在です。そして、新規事業創出の経験を持つ人材が経営層に上がっていくキャリアパスを確立できれば、会社全体でさらなる価値創出にも挑めると考えます。
最後に、これから新規事業の創造に取り組む皆さんにお伝えしたいことがあります。
新規事業という言葉で思考停止してはいけません。「とりあえずやってみる」だけでは、いつまでも前進しません。既存事業と同様に、しっかりと言語化し、目的やアプローチを定め、それらを現場と経営で合意することから取り組んでください。新規事業は偶然の産物ではありません。プロセスを整備し、適切な人材を配置し、組織として取り組めば、一定の再現性を持って実現できるものです。
現場で新規事業開発に携わる皆さんが、今回の連載を通じて自社にとっての「型」と「正解(特殊解)」に近づき、さらにビジネスプロデュースCoEを活用して、再現性の高い新規事業創造を実現していただければと思います。
現場と経営のギャップは正しく埋められます。そのための具体的な道筋を、この連載で示せたのであれば幸いです。
