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企業価値向上のためのFP&A

ENEOSが挑む、ROIC経営を加速させるFP&A組織──立ち上げ背景にあったPBR1倍割れの危機感

ゲスト:ENEOSホールディングス株式会社 田中聡一郎氏、ENEOS株式会社 開沼公雅氏

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「予算の水ぶくれ」を削ぎ落とす予算制度改革

池側:FP&A組織が本格稼働してから、すでに出ている具体的な成果について伺いたいです。

開沼:「経理から始めるFP&A」として、まずはコスト適正化からスタートしました。最も象徴的な成果は、「予算策定プロセスの抜本的な見直し」です。これまでは、現場が不測の事態に備えて予算に「バッファ(余裕)」を積み増す「水ぶくれ予算」が常態化しており、これがコスト意識の希薄化を招いていました。

 FP&Aは各部署の予算策定プロセスに連携し、過去の実績データやコストのベースとなる業務プロセスの再検証を始めています。単なる「一律カット」を前面に出すのではなく、「ストライク」あるいは「P50」(予算不足・超過の可能性がいずれも50%の計画、これを平たく『ストライク』と呼称)を基本とするようマインドセットの転換を促し、事業部とともに不要なバッファを徹底的に剥ぎ取りました。

 これにより、実績を待たない早期の段階で経営資源を必要な方向に振り向けることができたと同時に、各部で予算が余った場合に優先順位の低い用途に経営資源が振り向けられてしまう事態を抑制できるようになったと考えております。

池側:現場からの反発はなかったのでしょうか。

開沼:やはり各部からの抵抗感はありました。枠予算を前提とする今までの仕組みでは、現場としてもある程度のバッファがあったほうが機動的・柔軟な施策実行ができるということは理解できます。しかし、枠予算の予算制度を改め、『予算不足の際は柔軟に追加措置に応じる』という信頼関係をベースに制度に移行するとともに、「この予算支出は本当にROIC向上に寄与するのか」という根っこからの問いを投げかけ、データに基づいた対話を始めています。

 また、現在は、費用対効果を厳密に測定する「BCR(Benefit Cost Ratio:便益費用比)」という概念の導入も進めており、一過性の削減ではない、筋肉質なコスト構造への変革を推進しています。BCRは、事業の評価期間における便益をコストで割った値として表され、Benefitの確からしさなどを考慮する必要はありますが、少なくとも1倍未満は不採択という基準となります。

 このように「経理から始まるFP&A」としてまずはくみしやすく、かつ、国内需要減少に直面する当社として必須対応であるコストの適正化を中心に初年度は取り組んだということです。

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「見える化」の先にある「So What?」の壁

池側:FP&A組織として順調な滑り出しに見えますが、推進上の課題についても率直にお聞かせください。

田中:課題は依然として山積みです。まず、ROICの「見える化」はある程度進みましたが、そこから「So What?(だから何をするのか)」という具体的なアクションにつなげる力がまだまだ不足しています。特に、原油価格やマージンの変動に収益が左右される「市況産業」特有の性質から、議論が自力ではコントロールできない外部環境の話に逃げてしまいがちなことがあり、できるだけ「環境要因」と「自助努力」に切り分けた分析力を高めていく必要性を感じています。外部環境の影響を排除した「自助努力」での改善をどう評価し、いかに現場を動機付けるかが今後の鍵です。

開沼:また、データの整備状況も十分とは言えません。SAPを導入してはいるものの、必要な分析を行うために、依然として膨大な「Excel手作業」が発生しています。現在は、「CoMPASS」と社内で呼称されるSAPをいかにして使い切るかの検証や、手作業を削減・自動化するためのEPM(経営管理システム)の導入検討、また、リアルタイムな経営状況把握のためのダッシュボード化を急いでいますが、ITインフラと社員のリテラシーの両面でさらなる底上げが必要です。

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池側:人材面での課題もあるとお聞きしました。

田中:はい。現在のFP&Aメンバーは財務・会計のスペシャリストが中心ですが、事業部と対等に渡り合い、本質的な提言を行うためには、「事業理解」が不可欠です。事業部の会議に「もともといる事業部の社員のような雰囲気で」溶け込み、現場の一次情報を連携する姿勢が求められます。専門性を武器に、時には支援し、時には牽制するという、改善マインドに裏打ちされた高度なバランス感覚、前向きなコミュニケーション能力を備えた人材の育成が急務です。その観点からこの春より、経理をバックグラウンドとするFP&Aメンバーの事業派遣の数をかなり増加させています。

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資料提供:ENEOSホールディングス株式会社/クリックすると拡大します

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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