「計画未達」を契機に社外取締役の提言から始まったFP&A組織
池側千絵氏(以下、池側):丸井グループは、日本企業の中でもガバナンスと経営管理の進化においてフロントランナーです。まず、今回FP&A組織を抜本的に強化された背景を教えてください。
加藤浩嗣氏(以下、加藤):最大の要因は、2022年度、2023年度と2期連続で通期計画を達成できなかったことです。特に投資家からは、計画の精度と責任の所在について厳しいご指摘をいただきました。その際、社外取締役から「計画を作る経営企画と、実績を管理する経理が分断されている。グローバル企業のように一貫して責任を持つFP&Aを導入すべきだ」という提言をいただいたのが決定打となりました。
1987年入社。財務部、経営企画部長、IR部長などを歴任し、2019年よりCFOに就任。サステナビリティ・ESG推進担当役員の経験もあり、同社の人的資本経営を牽引している。
池側:貴社の業績推移を拝見すると、1990年以降、バブル崩壊や貸金業法改正、リーマンショックで2度の赤字を経験されています。その後、V字回復を遂げ2020年3月期には最高益を更新されましたが、その後の「計画未達」は組織にとって相当な危機感だったのですね。
加藤:はい。かつて2007年から2014年頃の「停滞期」には、1株当たり純利益(EPS)が10円台にまで落ち込みました。あの頃は「業績至上主義」が先行し、現場の実態と乖離した計画がまかり通っていました。最高益更新後の未達は、再びあの停滞期に戻るのではないかという危機感を生みました。そこで、過去の業績推移を因数分解し、成長のメカニズムを再定義する必要があったのです。
投資家視点を取り入れた戦略策定とFP&A
池側:貴社は、社外取締役が戦略の策定・遂行を実効的に監督する「ボード3.0」を実践されています。FP&Aはこの体制とどう連動しているのでしょうか。
遠藤真見氏(以下、遠藤):私はFP&A部長として、取締役会の諮問機関である「戦略検討委員会」の事務局を務めていますが、そこには投資家視点を持つ社外取締役も参加します。委員会の中では、「資本効率は改善するのか」「その施策で本当にPBR(株価純資産倍率)は上がるのか」といった、本質的で耳の痛い問いが投げかけられます。
2006年入社。財務、経営企画、IR、人事、共創投資など多岐にわたる部門を経験。2024年のFP&A組織立ち上げより部長を務め、独自のダブル(デュアル)レポートライン体制を構築した。
池側:次期中期経営計画では、貴社は財務KPIとしてROE15%以上、PBR3~4倍という、日本企業としては極めて高い目標を掲げています。これを達成できるように、FP&Aが裏付けを作っているのですね。
遠藤:そのとおりです。以前は社外取締役への説明が「終わった数字の報告」になりがちでしたが、今はFP&Aが、投資家の期待(PER)と収益性(ROE)の両面から、将来の数字を予測し、戦略の妥当性を証明する役割を担っています。経営層と投資家の「対話のプラットフォーム」をFP&Aが構築している感覚です。
加藤:投資家の社外取締役からは「将来のキャッシュフローに対する解像度が低い」と指摘されました。それに応えるために、FP&Aが各事業の現場まで入り込み、精度の高いシミュレーションを行う体制を整えたのです。
