「無理な目標」を「納得感ある計画」へ転換する
池側:FP&Aが介在することで、現場のモチベーションにはどのような変化がありましたか。
加藤:以前は、トップダウンで降りてくる「必達目標」に対し、現場が疲弊するなど、達成できないとわかっていても「イエス」と言わざるを得ない空気があったかもしれません。今は、FP&Aが「モニタリングフレームワーク」を用いて、目標と実態のギャップを構造的に示します。
池側:感情論ではなく、ロジックで議論するわけですね。
加藤:はい。「この目標は今のリソースでは厳しい。しかし、このコストを削減し、この施策にリソースを集中させれば、利益目標は達成できる」といった代替案をFP&Aが提示します。これにより、現場の社長も「納得感のある計画」としてコミットできるようになりました。FP&Aは、経営と現場の「翻訳者」であり、対立を解消する「調停者」でもあるのです。
未経験者が「フロー状態」で開花する、丸井流の人材育成
池側:FP&Aという専門性の高い組織において、メンバーの半分以上が「非財務出身」だという点に驚きました。店舗出身の方などが活躍できる理由は何でしょうか。
加藤:当社が大切にしている「フロー体験」という考え方が根底にあります。自分の能力より少し高い難易度の課題に没頭し、楽しみながら成長する状態です。「数字の裏側にある現場のストーリー」を知っている店舗出身者は、データに意味を持たせる力が非常に強いのです。
遠藤:財務のプロと、現場を知る「非財務」のプロをペアにすることで、互いに補完し合う関係を作っています。未経験者でも、FP&Aという役割を通じて「自分の分析が経営を動かしている」という実感を持つと、驚くようなスピードで簿記や財務指標を習得し、フロー状態に入ります。
池側:「人的資本経営」を標榜する貴社らしく、FP&A組織そのものが、人の可能性を解き放つ実験場になっているのですね。
遠藤:まさにそうです。最近では他部署から「FP&Aメンバーはいつも楽しそうに議論している」と言われるようになりました。2年前にFP&A組織を始めたころは、業績が悪かったこともあり暗い雰囲気だった(笑)んですが、今では明るいクリエイティブな組織へと進化しています。
池側:遠藤さんのきめ細やかな組織作りの効果も大きいですね。

CFOは「スーパー財務部長」ではない
池側:最後に、丸井グループが目指すCFO像と、FP&Aの将来展望についてお聞かせください。
遠藤:立ち上げから2年、ようやく「信頼の土台」ができました。次は、このFP&Aの知見をさらに広め、全社員が「自分たちの行動がPBRやROEにどう繋がっているか」を意識できる文化を作りたい。外部からの評価(外圧)を社内の自信に変えていくのが、私たちの役割です。
加藤:私は、CFOを単なる「スーパー財務部長」で終わらせてはいけないと考えています。資金調達や決算といった守りの財務だけでなく、中計の策定から実行、そして無形資産への投資判断までを一貫して担う「価値創造の責任者」であるべきです。そのためには、CFOの右腕となるFP&A組織が不可欠です。今後は、蓄積された膨大な顧客データをさらに活用し、攻めの施策提案を次々と繰り出せる組織を目指します。
池側:過去の苦境をデータで凝視し、それを未来への投資ロジックに変換する丸井グループの姿勢は、多くの日本企業の道標になります。本日は貴重なお話をありがとうございました。

