量子を“加速器”に。拠点を越えて知が混ざり合うエコシステム
寺部:構想の中では、量子技術を単体で捉えるのではなく、他の分野と掛け合わせることを掲げていらっしゃいますね。具体的にどのような相乗効果を狙っているのでしょうか。
福田:おっしゃるとおり、量子はあくまで“加速器”のような存在です。川崎にはライフサイエンス拠点の「キングスカイフロント」や、クライメートテック・マテリアル拠点として整備を進めている「南渡田地区」があります。これまで取り組んできた創薬や素材開発、脱炭素技術などに、この圧倒的な量子計算のパワーを掛け合わせることで、まったく次元の違う世界へ到達できると考えています。
寺部:創薬と量子の組み合わせは、研究開発のスピードを劇的に変える可能性があります。
福田:まさにそうです。創薬だけでなく、たとえば金融のポートフォリオ最適化や、新素材のシミュレーションなど、量子とAI、そして古典的なコンピュータをベストミックスすることで、社会課題の解決が加速していきます。私は技術屋ではありませんが、「量子」というキーワードによって、これまで別々に活動していたプレーヤーたちが一気に混ざり合う、そのエネルギーに非常に期待しています。
寺部:拠点や分野を越えた知や人材の融合ですね。
福田:はい。拠点を越えて知や技術、そして資金が循環する仕組みを作りたい。川崎が持つ強固な産業基盤に「量子」という魔法をかけることで、人々の生活を豊かにし、安心安全な社会を実現する成果を生み出していく。この「混ざり合い」こそが、川崎独自のイノベーションの形なんです。

量子技術の社会実装と交流拠点へ。「新川崎・創造のもり」の進化
寺部:プロジェクトの中核である「新川崎・創造のもり」では、拠点の大規模な機能更新が進んでいますね。2029年度の量子技術を生かしたイノベーション拠点のオープンに向けて、どのような進化を遂げるのでしょうか。
福田:今の施設はインキュベーション拠点として首都圏最大級の規模を誇りますが、自戒を込めて言えば、これまで「交流機能」が少し弱かったと感じています。部屋に閉じこもって研究するだけでなく、もっと研究者同士、あるいは研究者と市民が自然に混ざり合う場所にする必要があります。そこで、K2タウンキャンパス(慶應義塾大学新川崎タウンキャンパス)の既存施設を解体し、同キャンパスの機能を含めた延床面積約5万㎡の大規模な新たな拠点を整備することを決定しました。
寺部:2026年2月に、三菱地所を代表とするグループが優先交渉権者に選定されたと伺いました。新たな枠組みでの拠点づくりが始まるのですね。
福田:新拠点は「Quantum Business Incubation Center(QBIC)(仮称)」と名付けられ、量子技術の「社会実装」を推進する中間拠点となります。量子・AI・半導体などの最先端の「知」が集まるラボ棟はもちろん、世界中からトップ研究者を呼び込むための滞在・交流機能、市民が気軽に立ち寄れるカフェ、そして市民や子供たちも活用できるオープンファクトリーなども配置します。
寺部:研究一辺倒ではなく、ライフスタイルも内包した拠点になるのですね。
福田:そのとおりです。2026年度から設計に入り、2029年度の開業を予定しています。基礎研究をPoC(概念実証)で終わらせず、シームレスに製品やサービスとしてまちへ浸透させていく。企業や大学との強力な連携のもと、世界トップレベルの研究人材が惹きつけられ、根付くような、日本を代表するイノベーションの種火をここから絶やさず生み出していきたいと考えています。
