『FP&Aの教科書』が提示する経営管理の仕組みと新領域
栗原:ここからは新刊『分析力と提案力で企業価値を高める FP&Aの教科書』(税務経理協会)の具体的な中身について詳しく伺っていきます。まず、この本の中で提示されているFP&Aのコアとなる役割や、従来の日本企業の組織課題についてお聞かせください。
池側千絵氏(以下、池側):本書では、FP&Aの果たすべき役割として「A) 戦略と整合した計画策定」「B) 業績目標達成支援」「C) 意思決定の質を高める」という3つのサイクルを一貫して行うことを提案しています。一般的な日本企業において、この「FP&A」の機能は普通にある仕事です。しかし、中期経営計画を策定する経営企画部門や、予実管理を行う経理財務部門などに分散して存在しているため、専門職という認識もなく、その機能も果たしにくい状況にあります。たとえば、経理部が計画策定に関与していないのに予実管理をしようとしても、「いくら予実の差が出たか」の計算はできても、その理由は事業部門に聞きに行かないとわかりません。ましてや、その差をどうするのかを提案することはできません。事業部門の中にいても、経営や事業の意思決定に貢献するような場はなかなかありません。
本書の第2部では、この課題を解決するための経営管理・管理会計の手法とFP&Aの役割を先進企業の事例を示しながら解説しています。第3章では中長期の経営計画を、コーポレートと事業会社のFP&A・経営企画がともに「財務モデル」を構築して戦略対話を行い、企業全体の価値を高める方法、3年ごとの金額目標に縛られず、財務・非財務の成長目標を設定してそれを達成していくなどを解説しています。
栗原:非常に実践的な内容ですね。
藤野:はい、本書の第5章では「KDDIのマスタープラン」の事例を掲載しています。経営フィロソフィーを確立している同社が、どのようなFP&Aサイクルで事業に合った採算管理業務を行っているのかを網羅しました。また、第6章では伝統的な原価管理を「市場情報を取り入れる原価管理」として再定義し、NTN社の事例をもとに、販売価格の引き上げにいかにFP&Aが伴走し利益管理をサポートしているかを詳しく記述しています。
非製造業・サービス業へ拡張する管理会計の実践
栗原:従来の管理会計や原価計算の教科書と言えば、自動車や電機といった「製造業」の工場を舞台にした事例が主流でした。今回の新刊では、その枠組みを大きく広げているそうですね。
藤野:それは本書の極めて大きなこだわりであり挑戦でした。日本企業の伝統的な工場経理や原価企画は洗練された誇るべきものですが、現在の日本経済はサービス業やIT、金融といった非製造業の比重が圧倒的に高まっています。
それにもかかわらず世のテキストは製造業を事例としたものが多く、サービス業の実務家から「製造業を前提に書かれた教科書でどのように学べばいいのか」という切実な悩みを数多く聞いていたのです。
池側:そこで本書の第3部では、コンサルティング業の事例としてRidgelinez社、保険業の事例としてSOMPOホールディングス、システム開発業の事例として、日鉄ソリューションズの実例を取材しました。
サービス業のFP&Aは、コンサルティング業で活用されている「コラボレーションクレジット(複数部門・複数チームで協働して案件を獲得・推進した際、各部門の売上高や評価を按分し、組織間の連携を促進させる評価・インセンティブ制度)」、保険業での「コンバインド・レシオ(保険会社の「損害率」と「事業費率」を足し合わせた、保険本業の収益力を示す経営指標)」、システム開発業の「直外比率(プロジェクトの生産性と収益性のバランスを測るための重要な経営指標)」など、それぞれの業態において重要な経営指標をモニタリングしています。
さらに、第7章では医薬品メーカーなどの「R&D(研究開発)部門」に焦点を当て、不確実性の高い投資案件を「ステージゲートプロセス」や「ポートフォリオ管理」を通じていかにファイナンシャルモデルにするかという最新の実践を詰め込みました。これにより、非製造業の読者にとっても、自社に合った導入方法を見つける強力なヒントになるはずです。
